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長嶋一茂と駒田徳広が甲子園で対決…阪神優勝を予言する映画「ミスター・ルーキー」がいろいろすごい

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/09/19
note

この映画で一番重要だと思う点とは

 この映画の状況をメタ的に捉えると、「元巨人の選手が、阪神の優勝の立役者となる」とも言えそうです。同じように巨人から移籍してきた選手がいたら、彼がキーマンになるに違いない!

 とはいえ、現実では宿敵同士である巨人から阪神への移籍、そしてその逆も稀で、70年の歴史の中で5度しかない(そのうち1つが江川卓選手と小林繁選手のトレード)。移籍した途端に活躍されたら、ファン心理としては堪らないでしょうから、避けたくなる気持ちもわかります。しかし、昨年11月に貴重なそのうちの一度、両球団間16年ぶりのトレードで、阪神に移籍してきた選手がいるではないか! それが山本泰寛選手です。

 余談になりますが、山本選手の天然ぶりが、先日CBCテレビさんのYouTubeチャンネル「燃えドラチャンネル」で、井端弘和さんに暴かれていました。出塁後サインを見ることに精一杯で、つけていたバッティンググローブを外すなりコーチに向かってを放りなげたり、「ヘッドスライディングするな」というチーム方針が出た直後にヘッドスライディングしたりというエピソードに、おっちょこちょいの私は親近感を持っています。

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 若手の活躍に引っ張られるように走ってきたチームですが、秋は経験が問われるはずです。「バテたときに、どういう調整をすればいいのか?」「失速してきたチームの雰囲気を盛り上げるには?」、経験はその答えを教えてくれますが、若手揃いのタイガース、ベテランはそれほど見受けられません。山本選手はまだ年齢的にベテランとはいえないまでも、巨人での優勝争い経験を、若トラ軍団に注入することを期待したいです。

 ここまで、『ミスター・ルーキー』から吉兆を読み取ってきましたが、「こじつけじゃないか?」「だからなんなんだ?」とお思いの読者の方もいらっしゃると思います。私はこジンクスをすごく気にする方なのですが、この映画で一番重要だと思う点は、実はそこではありません。「阪神がG(ガリバーズ)を倒す」というストーリーを取っていることです。

 巨人が数々の重要な一戦を勝ち抜いてきたことでプロ野球史を築いてきたことと対称的に、阪神タイガースは悲劇的な敗戦で、プロ野球というドラマを引き立てる場面が多かったです。象徴的なのは、天覧試合での一茂の父茂雄にホームラン。終生「あれは絶対ファール」だと言いつづけたという村山実投手の逸話を聞いて、胸を震わせない野球ファンはいるのでしょうか。また、巨人のV9がかかった1973年の「世紀の落球」と優勝決定戦の敗北。1992年、ヤクルトに競り負けるきっかけとなった「幻のサヨナラ弾」。最近では2008年の「メークミラクル」など……。(巨人ではパッと思い浮かびませんでした。「10.8決戦」も中日が負けたし……)。そこも魅力だ思いますが、そんなこと言うと阪神ファンには叱られますね。すみません。

 阪神と巨人の優勝決定戦の脚本を書くとき、悲劇のヒーローに仕立て上げるほうが、イメージしやすく画を描きやすいようにも思えます。しかし『ミスター・ルーキー』は、その流れに乗らず、前例のないストーリーを描きました。「阪神が勝ったっていいんじゃないのか」というように。

 ラストのガリバーズとの優勝決定戦、どちらも当時現役の藪恵壹投手と矢野捕手のバッテリーでスタートした試合をぜひ観て、巨人を倒すイメージを膨らませておくことをおすすめします。私も中日ファンではありますが、その気になってきました。

 最後にひとつ、阪神ファンに聞きたいことがあります。パ・リーグでロッテが好調なことには、嫌な予感を持つものなのでしょうか?

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