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 もともとゲーム内では、「チャット」と呼ばれる文字でのやりとりが一般的だった。マンガの吹き出しやテレビ番組のテロップのように、利用者同士が文字を入力して会話する。とはいえ、ゲーム操作をしながらの文字入力では手間も時間もかかってしまう。そこでボイスチャット、つまり声で会話しながら遊ぶという形態が広がってきた。ちなみに子どもたちは略して「ボイチャ」と言う。

 株式会社ゲムトレの調査(2020年5月)では、小学生に人気のゲームは「フォートナイト」(22.1%)、「マインクラフト」(17%)、「あつまれどうぶつの森」(14.1%)などだ。1位の「フォートナイト」は利用者同士が生き残りをかけて闘うバトルロイヤルゲーム、同種の「荒野行動」や「コール オブ デューティ」は中高生の人気が高い。

ボイスチャットで飛び交う暴言

 フォートナイトや荒野行動などのゲームはボイスチャット機能を備えて仲間との意思疎通がしやすく、隣り合って遊んでいるような臨場感がある。一緒に叫んだり、笑い合ったりできることは、ボイスチャットならではのメリットだろうが、一方で深刻なトラブルが生じている。たとえば暴言や悪口、仲間はずれだ。

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「子ども部屋から毎日のように『死ね』、『殺す』、『消えろ』なんて言葉が聞こえてくるんです。何度注意しても『ふつうだから』と言って本人はケロッとしている。あんなに汚い言葉を使いながら遊ぶのはやめさせたいんですが……」

 小学6年生の息子を持つ母親(39歳)は、スマホやパソコンでフォートナイトに熱中する子どもの様子を懸念する。子どもは同じクラスの男子数人でチームを組み、LINEで「今日は○時スタート」とゲーム開始の連絡を取り合う。いったん遊びはじめると汚い言葉を連発し、興奮して大声を上げたりすることもあるという。

「お互い協力して楽しく遊ぶならともかく、子ども同士で『クソ』、『ダッサ(ダサイ)』とけなしあったりするみたいです。それで本当に友達なの? 学校で大丈夫? と心配なんですが、息子はこれくらいやらなきゃダメだと言う。なんでもおとなしいタイプの子は、仲間から一方的に責められたり、バカにされたりすると」

 フォートナイトは生き残りを賭けて闘う、逆に言えば殺し合いをするゲームだ。だからといって必ずしも残虐というわけではなく、流血や体がバラバラになるような描写は使われていない。あくまでも遊びだと自覚し、ゲームマナーを守って利用するぶんにはいいのだろうが、小学生のような未熟な関係性ではむずかしい。

 おまけに会話となれば、相手の調子に合わせてつい感情的にもなるだろう。「なにやってんだ、バーカ」と言われたら、「おまえこそバカじゃん。失せろ」などと返してしまいがちだ。こうしたやりとりがエスカレートし、リアルの学校や家庭生活に影響が及ぶことも増えている。

 便利な機能は人と人とをつなぎやすくするが、だからといって人間関係がより豊かになるわけでもない。SNSにしろ、オンラインゲームにしろ、「声」を通じて不特定多数のおとなと関わるようになった子どもたちは、この先どんなリスクを抱えていくのだろうか。

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