「日常生活ではマスク越しの声が聞き取りづらい人でも、リモート会議ではヘッドホンをしたりボリュームを上げることで“難聴の症状”をマスキングできてしまう。コロナ禍は難聴の人を増やしたり、その存在を隠したりしているのです」
マスクをつけたときの難聴は本物の難聴ではないので、コロナ禍が収束してマスクがいらない世の中に戻れば理論上は聴力も戻る。
難聴の“種類”、どう見分ける?
しかし、ベースに加齢性の難聴があって、そこにマスクによる難聴が重なっている人は、話がややこしくなる。
「同じ難聴でも、中耳炎で鼓膜に穴が開いて起きるような難聴なら手術で治せます。しかし加齢性の難聴(老人性難聴)は、音や声を聞き取る細胞が死んでいくことで起きる疾患なので、根本的な治療法はありません。日ごろから大きな音を避ける、動脈硬化や糖尿病などの基礎疾患がある人は血管へのダメージを予防するなどの対策である程度は症状を遅らせることはできますが、日常生活に支障をきたすようであれば補聴器の使用を検討する必要が出てきます」
いまの聞き取りにくさが加齢性の難聴なのかマスクによるものなのか、あるいはその両方なのかは、検査をしないと分からない。特に50歳以上の世代は、マスクをつけたときに聞こえづらいだけだろう思っていたら、じつは加齢性の難聴だった、ということもあり得るのだ。
「加齢性の難聴であれば、会話の際だけでなく、自宅でテレビを観たり音楽を聴いたりするときに音が大きくて家族から指摘されることもあるでしょう。ただ、それだけで判断はできないのですが……」
難聴の原因をはっきりさせるには耳鼻咽喉科で行われる一般的な聴力検査のほかに、必要に応じて語音聴力検査という専門性の高い検査を加えて診断につなげていくことになる。
いつかコロナ禍が落ち着き、人々の顔からマスクが取れたときに、どこまでクリアに会話が聞き取れるのか――。
いずれにしても、コロナ恐るべし。