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「共同富裕」という共産主義らしいテーマが登場

 さらには、この整風、反腐敗の延長線上に「共同富裕」という共産主義らしいテーマが登場。もちろん、中国経済は画期的なぐらいに成長したけど、格差が広がり過ぎてヤバイから脱貧困を掲げるにあたり、これらうまくいった企業や経営者一族からカネをごっそりと引っ張り、貧困に喘ぐ人たちにどしどし再分配するぞという話であります。

 もともと中国の貧困問題は、いまのような発展を成し遂げる前の1996年には経済学者の温鉄軍さんが貧しい農村、農業、農民の問題として提起したものなんですが、それこそ鄧小平さんの南巡講話での「先に豊かになれる者から富んでいこう(先富論)」という思想と対になっているものです。その先富論においては貧困対策にも目配せがあり、さすがだなと思うわけですが、そもそも鄧小平さんが失脚した理由は「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫が良い猫である(白猫黒猫論)」というプラグマティズム(実益主義)が背景にあって、これらの流れがいまの習近平さん流の経済運営にも大きな影響を与えているのは間違いないんじゃないかと思うんですよね。

 そして、その習近平さんのナショナルアイディアである「共同富裕」路線と軌を一にするように、アリババの馬雲さん行方不明問題とか、いまや米中対立の象徴ともなったファーウェイ(華為技術)の孟晩舟さんの問題とか、テンセントその他中国系大企業の異変もまた引き起こしているのでしょう。中国もうまくいったビジネスマンと人生やることなすことすべて駄目な一般国民との間の緊張関係があり、そういうピカピカなビジネスマンを共産党員が引きずりおろしてボコボコにするさまを見ると、国民が「ありがとう共産党」となるというエコシステムがあるのかもしれません。

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救済の素振りも見せないままドボンさせるというのはビックリなんですよ

 投資家目線で言えば、中国が国内事情で国内経済の引き締めや、政治が経済を野放しにしなくなった影響を、主に中国企業の「市場からの調達」に見ることができます。去年までは、EU中枢であるドイツ最大の投資銀行であるドイツ銀行の筆頭株主に海航集団という企業を送り込み、また、途上国経済の権益確保も目指して「一帯一路」政策を推進しており、いわば海外のルールに則って、中国の旺盛な経済成長力をテコにしながら中国の国威を引き上げていこうという話でした。

「中国全土13億人市場」というだけで凄く暴力的な雰囲気のビッグマーケットなのに、さらにそこで得られる富でドライブをかけた海外投資事業があったら日本はもちろんアメリカも欧州も振り回されるのは当然ですから、さすがに警戒感が強くなるのも仕方がないことです。その中国の経済力の源泉こそ、世界の工場であり、そこから技術(知的財産)の集約地にしようという野心を持つのも当然です。だからこそ、中国が世界の工場であり続けるために「中国製造2025」のようないかにも共産圏チックな5か年計画を打ち出して頑張ってきたわけです。

 ところが、今回のような海外のルールに則り海外で資金調達をし香港で上場しているような恒大集団のデフォルト危機について、おそらくは国内事情もあって救済の素振りも見せないままドボンさせるというのはビックリなんですよ。おい、救わねえのかよ。日本では、木村剛さんが派手にやらかした日本振興銀行だって、ペイオフで預金者は保護したし、東芝にいたっては東証ほか市場改革の動きを止めてまで経済産業省が派手に介入して買収分割を防ぎましたからね。見ようによっては、日本よりも中国のほうが政治がドライに経済の立役者や老舗を原理原則にそって切っていくという点では公正にすら見えます。実際はそんなこともないのかもしれませんが。