ジョイは「バーチャルセックス」まで体験させてくれる
小「君もはっきり言うなあ。だけど、物語当初のKは確かに『非リア充のオタク』そのものやな。友達もおらず、唯一の慰めは、3D映像で投影されるジョイちゃんとの『交流』だけ。ジョイは着せ替え人形みたいにどんどん衣装を変えてみせてくれたり、手料理でもてなしてくれたり。果ては街の娼婦の肉体と自分の映像を重ね合わせて、『バーチャルセックス』まで体験させてくれる。オタクは、お気に入りの美少女キャラを半ば自虐的に『オレの嫁』と呼ぶんやけど、ジョイはまさに『究極&至高の嫁』と言ってもええやろう」
恋「ジョイを演じる女優がまた、いかにもアニメのキャラっぽいんですよ」
小「キューバ出身のアナ・デ・アルマスやな。お目々ぱっちりのタヌキ顔&ちょっとだけぽっちゃり系の巨乳で、サド系美女が苦手なオタクのツボを突きまくっとる。『さすがヴィルヌーブ監督、よう分かっとる!』と感嘆せざるを得んわ。今、人工知能(AI)と頭部に映像ディスプレイを装着するタイプのVRがすごい勢いで進化しているけど、この2つを組み合わせたら、現実世界でもジョイに近い『VR恋人』が登場するのは時間の問題やろうな」
恋「で、小石さんみたいな人が、どんどん現実の女性よりもVR美少女との恋愛ごっこに耽るようになる、と」
小「やかましいわ! 女性は現実の方がええに決まっとる。オレも正直、最初はジョイに違和感があったけど、色々と考えるうちに、ジョイはこの映画を理解する鍵を握っている、と思うようになったんや」
「自己繁殖できるレプリカントの製造」の謎
恋「へえー。どういうことですか?」
小「まあ、その話をする前に、映画の流れを振り返ってみようや。冒頭、Kが処分した潜伏レプリカントの自宅地下から、出産直後に死亡したと思われる古い女性レプリカントの骨が発見される。レプリカントに子供は産めないと思われていたから、これは大変なことや。人間とレプリカントの境界が崩れることを恐れたKの上司は、Kに生まれた子供を探し出して処分し、すべてを闇に葬るよう指示する。一方で、レプリカントの製造元であるウォレス社の社長は、失われた技術である『自己繁殖できるレプリカントの製造』の謎を解き明かすため、部下のラブを使ってKを追い、レプリカントの子供を手に入れようとする。物語のおおよその構図はこんな所やな」
恋「驚いたのは、子供を産んだ女性レプリカントは、前作で主役のデッカードと共に逃亡したレイチェルだったということですね。つまり、Kが追っている子供というのは、デッカードとレイチェルの間に生まれた子だったんですよね」
小「ブレランの続編は絶対無理、作ったとしても大駄作になる、とオレらブレランマニアは思い込んでいたからなあ。『その手があったんか!』と正直うならされたわ。話を戻すと、捜査を続けるうちにKは、実は自分がデッカードとレイチェルの子供ではないか、と思い始める。そやけど、最後の最後になって『それは、自分がデッカードの子供と同じ記憶を埋め込まれていたために見た幻に過ぎない』という事実に直面させられるんや」
恋「『自分は特別な存在かもしれない』と思いかけたのに、『やっぱりその他大勢の1人だった』と思い知らされる。多くの人が辿る道かもしれないけど、残酷ですよね」
小「それでもKは、ウォレス社に拉致されたデッカードを命がけで救い出し、捜査の過程で見つけ出した『デッカードの本当の子供=娘』と再会させようとする。どちらとも本当は赤の他人やのに、なんでそこまでやったと思う?」
恋「そりゃあ、デッカードと娘に情が移ったからでしょう?」
小「それだけで、命まで賭けると思うか。オレはこの展開を見ていて、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』を思い出したんや」