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なぜレプリカントのロイはデッカードを助けたのか?

「旧作を見直したら分かるんやけど、ロイはデッカードとの最後の対決時に、デッカードの名前を知っていて直接呼びかけているんや。だけど、ロイがデッカードの名前を知る機会は、物語の流れの中では一度しかない。それはロイたちを創造し、ロイに殺されたタイレル社社長の部屋や。ロイはタイレルを殺した後、自分たちにとって有用な情報がないか、部屋の端末か何かを使って徹底的に検索したんやろう。

 ロイはそれによって、自分たちを追っているのがデッカードであること、デッカードがレイチェルをかくまっていること、そしてレイチェルが子供を産める体であることを知ったんや。『憎い仇やけど、見方を変えれば自分と同じように、惚れた女を救おうと懸命に戦っている健気な男なんや』という共感が湧いたんやと思う」

「それに、デッカードがレイチェルと一緒に逃げ延びられて子供ができれば、レプリカントの未来にも新たな希望が生まれる、ということですね」

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「ロイは自分の寿命を伸ばすという希望を打ち砕かれ、恋人と仲間を失い、絶望していた。そやけど、デッカードとレイチェルに未来を託することで、初めて安らぎを得て死んでいったんやと思う。Kも、自分の大切な記憶やかけがえのない人がすべてフェイクだったことを知って一度は絶望するけど、自分の『家族』であるデッカードと娘に未来を託することで、初めて微笑みを浮かべ、静かに死んでいく。この二つの場面で『Tears in Rain』という同じ切ない曲が流れるのは、必然やと思うで」

「だけど、旧ブレランでロイがデッカードの名前を呼ぶのは、単純な作り手のミスかもしれませんよね」

「まあ、そうやろうな。そやけど、ブレランレベルのすごい作品になってくると、スタッフの勘違いも含めてすべて『事実』として受け止め、自分なりの解釈を試みるのも意味があると思うで。それは、人生という『自分自身の物語』を紡ぐ訓練にもなるからな。オレたちがロイやKから真に学ぶべき教養は『自分自身の絶望の物語を、希望の物語へと反転させる意志の力』だと思うんや」