日本の明治維新政府は、医学、法学とともに工学を重要視しました。つまり、すぐに使える学問です。工学部はヨーロッパに追いつけ追い越せ、富国強兵・殖産興業のために重要だという位置づけでした。現代もすぐに使える学問は大事にされる風潮がありますが、それはこのときにつくられたわけです。
すぐ使えないために、軽んじられてしまうけど
一方、私立文系の学問はすぐ使えない学問です。すぐ使えないために軽んじられているのでしょうが、そういう風潮があるのは日本だけでしょう。しかし、すぐに使えるものしかヨシとしないのは、中長期的には学問の根を枯らす風潮だと思いますし、そもそもすぐに役に立たないものが学問であり、100年後の私たちに必要なものを醸成していくのが大学の役割であると考えます。
能力で人をバカにするというより、すぐ使えるか使えないかで人をバカにする風潮というのがあるわけですね。あなたのご相談は、文系の学問にどういう意味があるか、文系の学問は社会に対してどういう意味合いがあるか、今の文系の学問がどうして見下されているのか、日本にとって、あるいは世界にとってどういう学問のあり方がいいのか……学問のあり方を考える、いい問題提起であると思います。19歳でよく気がつきましたね。
数学や物理ができるというだけでアタマがいい人に見えたり、カッコよく見えたりするのは、いわゆる思い込みです。これをハロー効果というのですが、ある一つの特徴に引きずられて、その特徴以外の要素までも同じように評価してしまうことがあるんです。そもそも生涯年収は理系出身のほうが文系出身より低いんですよ。出世も遅かったりしますから、逆に理系が差別されているということを知ってほしいです。
◆ ◆ ◆
※最新回は発売中の「週刊文春WOMAN 2021年 秋号」に掲載中です。
中野信子さんにあなたのお悩みを相談しませんか?
みなさまのお悩みを woman@bunshun.co.jp(件名を「中野信子人生相談」に)もしくは〒102-8008 東京都千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「中野信子の人生相談」係までお寄せください。匿名でもかまいませんが、「年齢・性別・職業・配偶者の有無」をお書き添えください。
text:Atsuko Komine
【週刊文春WOMAN 目次】小室佳代さん密着取材一年 小誌記者に語った息子の子育て、金銭トラブル、眞子さまへの尊敬/特集ジェンダー&フェミニズム/香取慎吾表紙画第10弾
2021年 夏号
2021年6月22日 発売
定価550円(税込)