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 いかにも謙虚な植木さんらしい発言だが、筆者はテレビ誌の記者時代、このお二人のそんなお人柄に一瞬触れる機会があった。それは、ナポレオンズさんも出ている番組の取材だった。その日はナポレオンズさんメインの取材ではなく、出演者全員での合同会見のような取材だったと記憶している。

1990年、第103回芥川賞・直木賞授賞式でのナポレオンズ ©文藝春秋

「それナポレオンズさんの自主サービスですよ!」

 半ば当然の如く収録は押し、自分の他に数名の記者がテレビ局の廊下の長椅子に座って待っていた。“待つのも仕事のうち”が記者の信条……と待っていたが、それでもやや焦れてきた1時間半ほど経ったころであろうか、いきなり我々記者の前にお二人が現れた。

「いやいやいや、みなさん、すっかりお待たせしちゃってごめんなさい」と切り出した小石さんに一同がポカンとしていると、「お詫びにここでちょっとしたマジックをお見せします」とたたみかけた。そしてそのまま、植木さんがステッキを花に変えるなど、マジックの披露が始まったのだ。正直、手持ち無沙汰だった我々が大いに癒されたことは言うまでもない。拍手しようとすると、口に人差し指を当てた小石さんがひと言。

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「まだね、収録中なんで、拍手喝采は心の底で結構です」

 “粋だなぁ”と感動した。小石さんが「ではみなさん、もうちょっとだけお待ちを」と会釈すると二人は風のように去って行った。時間にしてほんの2、3分のこと。しかし、とても濃密な時間に感じられた。その間、ひと言も喋らずに手品を披露し続けていた植木さんにも感謝だ。