あとでテレビ局の広報の方にそのことを話すと、「そうなんだ!? それナポレオンズさんの自主サービスですよ!」と逆に驚かれていた。
思わずナポレオンズのお二人の写真を一番大きく載せてしまったが、お二人がそれを狙ってやられたわけでないことは明白だった。もう20年以上前のことだ。
ナポレオンズの芸名は、もちろんフランスの英雄ナポレオン・ボナパルトからだが、じつはコンビ名を考えていたときに偶然、ブランデーのナポレオンが目に入り、苗字のボナパルトを2分割して二人の芸名が決まったという。律儀なお二人は後年、フランスを訪れた際にナポレオンの墓参りをして、名前を無断借用したことを詫びたという。
そんなお二人の師匠は、水中脱出などで知られる昭和の名奇術師・初代引田天功さん。弟子入りはしたものの、そのエキセントリックな芸風についていけず、ゼンジー北京さんやマギー審司さんの師匠・マギー司郎さんに代表される“コメディマジシャン”を志すことになった。
当初は今ほどコメディマジックが認知されておらず、苦戦を強いられたが、結果的には差別化に成功。息の長いコンビを続けられることになった。ある意味、“こんなすごい師匠の芸風はとても受け継げない”と謙虚に自己分析されたお二人の勝利といえよう。
ナポレオンズの芸の神髄
その後も取材で何回かお会いしたが、やはり取材待ちの我々記者の前にサッと現れ、数芸を披露してサッと去って行った、あの時のことが一番印象に残っている。お金のためでも人気獲りのためでもなく、我々見ず知らずの記者たちを労うためのささやかなマジック、それがナポレオンズの芸の神髄なのかもしれない。
パルト小石さん、私だけでなく世界中のみなさんに名人芸と優しいお心遣いをありがとうございました。