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家族や近しい人の看病や介護の合間にお薦めの3冊

2017/12/11

魂の文章術』は古い本なので見つけにくいかもしれない

 ただし、古い本なので見つけにくいかもしれない。そんなときはジュリア・キャメロン『新版 ずっとやりたかったことを、やりなさい。』(サンマーク出版)もおすすめ。同じくクリエイティブライティングの本で、批判ばかりする自我に検閲をさせずに、毎朝3ページずつモーニング・ページと呼ぶノートに、心のままに文章を書いていくと、いずれ自分の本当の願いにたどり着けるとする本だ。読んでいるだけでも希望が湧いてくる。

©iStock.com

 家族が病気になるというのは人生の一大事だ。今まで当たり前に見ていた世界の見え方が、その日を境に変わってしまう。しかし、人というのは不思議なもので、そんな日々に出会った風景が、最も美しく心に残ることがある。最初は「あれがつらい」「これが苦しい」かもしれないが、細部に目をやれば、母のネルのパジャマから伝わるぬくもり、父が母を支えているときにつないだ二人の手、父と病院から帰るときに聞いた、父の生まれ故郷である天津の地平線に落ちる真っ赤な夕日の話など、心に残ることがある。言葉にしてノートに書きつけると、人生の美しさと豊かさがたちまち自分の周りに満ちてくる。

『魂の文章術』にはこんな一節がある。「『自分が愛するものを信頼しなさい。そして信頼しつづけること。そうしたら、それはちゃんとあなたを導いてくれる』。それに、安全かどうかということもあまり心配する必要はない。自分がしたいことをやりはじめるなら、やがてはほんとうの安全にたどり着くのだから」。この「書く瞑想」のコツはとことん自分の味方になってあげること。どんな感情であろうとも筆が訴えてきたら、限りなく自分に共感してあげることだ。創造の神様とつながることができたら、状況に巻き込まれている自分から、少しだけ距離を置くことができるかもしれない。

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 もう一冊、私の大好きな山崎方代の歌集『こんなもんじゃ』(文藝春秋)を挙げたい。

 いつまでも転んでいるといつまでもそのまま転んで暮したくなる

 といった、ちょっとユーモラスで、のびのびとした歌の中に、こんな一首が入っている。

 声をあげて泣いてみたいね夕顔の白い白い花が咲いてる

「泣いてみたいね」と言っているぐらいなのだから、きっと方代もうまく泣けなかったのだろう。あわただしい日々の中で長い小説を読むのはなかなか難しい。私は活字を読む時間がないときには、よく書店の詩歌の棚をのぞいていた。詩歌は、その短い言葉の中にいるときだけ、時の流れをふっと変えてくれる力がある。今まで縁がなかったという人にも、ぜひおすすめしたい。

家族や近しい人の看病や介護の合間にお薦めの3冊

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