自分に残された時間を、どう生きていくか。
がん患者と、それを支える家族にとって最も切実なテーマだといえるでしょう。
そうした人々のこころに寄り添う必読の書10冊を、長年医療現場を取材し続けるジャーナリストの蒲谷茂さんが推薦します。

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 わたしは40年にわたり医療記事を執筆してきた。なかでもがんについては書く機会が多く、たとえば近著『民間療法のウソとホント』(文春新書)では、手を出してはいけない「がんの民間療法」の見分け方を紹介した。それ以外にも、健康雑誌の編集、医療健康関係の単行本の制作、テレビの医療番組の制作など、長年、医療・健康情報にかかわってきた。そのため、がん患者や家族からよく相談を持ちかけられる。

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 取材の経験から、病気になっても、医者まかせではなく自分が治療の主役になって病気に立ち向かうことが大切だとわたしは思っている。

 そこで、初めてがんといわれたとき、あるいは再発したとき、また、末期がんといわれたとき、いつでも力になってくれる本を紹介したい。がん関連の本は数多く出版されているが、患者だけでなく、家族も勇気がわいてくる10冊を選んだ。

生き残る側に行くには

『ガンに打ち勝つ患者学』(グレッグ・アンダーソン 著)

 がんといわれた友人、友人の家族にまず勧めるのは、『ガンに打ち勝つ患者学』(グレッグ・アンダーソン/実業之日本社)。

 がんは、早期に発見され、治療がうまくいけば5年生存率が90%、末期の場合は30%などとよくいわれる。早期に見つかった人はほっとするだろうが、みな早期に見つかるわけではなく、再発もある。

 ではどうすれば、生き残る側にまわれるのか。これが本書の肝である。

 著者自身、肺がんで余命1カ月といわれている。それから、自分と同じように、ターミナル(終着駅)といわれた人たちまず500人に直接会いに行く。

 その結果、がんのターミナルの状況に打ち勝ったがん患者には、共通のものがあることに気づく。みな自分が信頼できる医師に出会っているのだ。

 この本を勧めた友人の話を紹介しよう。

 わたしより年長で、放送作家をしていた、豪放磊落(らいらく)を絵にかいたような人。お酒も強く、タバコもよく吸っていた。彼が喉頭がんになった。

 その時、この本を読んだ彼は何をしたか。もともと取材などで人の話をじっくり聞く習慣もあり、とにかく医師の話をわかるまで何度も聞いたのだ。治療の内容、期間、成功率、ほかの治療法との比較などをしっかり聞いて、選択していく。それで信頼が置けるとなったら、言うとおりにした。

 その結果、選択した治療にも医師にも間違いがなく、今も元気に暮らしている。

 あるがん専門病院の院長を取材した際、彼は治療の主役はあくまでも医師で、患者は主役ではないと言った。加えて、医師は患者の病気には興味はあるが、生活には興味はないとも言った。一応、患者中心の医療を心がけると大きく看板に掲げている医療施設だけに驚いた。もちろん、こう考えない医師もふえてきているが、これが多くの医師の本音だろう。

 だから、とにかく質問し、きちんと聞くこと。選択に迷ったら、医者にその治療法を自分の家族にも行いますか、と聞いてみるといいだろう。

 患者として主体的にがんに立ち向かうこと、これが基本になる。この本には、医師に対する具体的な質問などもあり、医師と話し合うときに役立つ。

 1万5000人の末期がんからの生還者のあり方は参考になるはず。