何なら食べられるか
次は実践的な本を紹介する。『抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』(静岡県立静岡がんセンター・日本大学短期大学部食物栄養学科編/女子栄養大学出版部)だ。
がんの治療の中には、抗がん剤や放射線を使うものがある。抗がん剤は健康な細胞にも働き、不快な症状を起こす。放射線も当てる場所によってさまざまな症状が起こる。そのため食事がとれなくなる人も少なくない。この本では、吐き気、嗅覚の変化、口内炎、膨満感、開口咀嚼(そしゃく)障害など、症状別に、「食べられる食事」が紹介されている。
抗がん剤の副作用で食べられないようになった友人に、この本を紹介したら、とても喜ばれた。食べなければよくならないといわれるが、食べる気になれない。これはつらいものだ。対象となるメニューがすべてきれいな写真付きで紹介されている。見ているだけでも、これなら食べてみたいという気持ちになる。
静岡県立静岡がんセンターがつくった本だけに、内容にも信頼がおける。
こころの痛みに耐えかねたとき
ホスピスで働く、医師や看護師の間でよく読まれている本を紹介する。
『なぜ私だけが苦しむのか』(H・S・クシュナー/岩波現代文庫)。この本は、ユダヤ教のラビ(教師)によって書かれた。
著者には、あと10余年のいのちといわれた息子がいた。「早老症」という病気である。人より早く成長し、14歳で亡くなる。
なぜ、息子がそんな病気になるのか。なぜ不幸はわたしにだけ訪れるのか。
宗教家だけに、神を信じなければいけないのだが、神とは何か、問いはじめる。そして、答えを得るまでの過程がくわしく述べられていくのだ。
そのため、「なぜわたしはがんになったのか」とか、「わたしの人生は何だったのか」などという問いを考えるのに、この本は役に立つ。
聖路加国際病院の小児科の細谷亮太医師は、『今、伝えたい「いのちの言葉」』(佼成出版社)という著書の中で、幼くして亡くなった子どものがんの患者さんに何もできなくて、そばに立ちつくしていたと書いている。しかし、その子の両親は、何もできずに子どもの脇で立ちつくし、泣いている細谷医師を見て、何かほっとしたという。
困難に出会った人が、そこから立ち上がろうとしているときにそばにいるもの。神という言葉がいやなら、それは、自分をじっと見守ってくれるものと思えばいいだろう。
見守る側は、がん患者の理不尽な、そしてやり場のない怒りを受けとめることが重要なのだ。直接受けとめることをしなくてもいい。そばにいるだけでもいいのだ。
痛みは決して我慢してはいけない
実際の痛みについては、『がんの「苦痛」をとる治療』(石井典子・山内リカ/朝日新聞出版)をお勧めする。
がんは痛いという印象がある。がん治療を受けている患者の3分の1、進行がんの患者の3分の2以上の人が痛みを訴える(『がんの痛みからの解放―WHO方式がん疼痛治療法(第2版)』より)。しかし、医療用麻薬を適切に使えば、8~9割以上の痛みを取り除くことができるのだ。
がんは痛いのが当たり前と言うような医師は、認識不足、勉強不足とこの本ではいう。
わたしも肝臓がんの末期の知り合いから相談されて、家族といっしょに担当医に会ったときに、痛みを必ずとってもらうようにお願いした。できることはやりますといってくれ、実際、痛みは最期までほとんどなかったという。
痛みを我慢してはいけない。そして、これも重要なことだが、痛みをなくすことで治療成績も上がるのである。
この本は、こうした直接的な痛みだけでなく、がん治療で起きる様々な症状、抗がん剤や放射線治療による苦痛にも対処する方法が書かれている。
医療専門ライターが、あくまでも患者の立場に立って、懇切丁寧に解説している。