今日もまた、著名人の不倫のニュースが世間を騒がせている。自分とは縁もゆかりもない、他人のプライベートを「悪」だと騒ぎ立て、社会的制裁を与えようとする。これぞストレス社会の縮図だよなあ…と暗澹たる気持ちになるが、人間のドロドロした裏の顔をのぞいてみたいという欲望は、誰の中にも確かにあるわけで。「不倫モノ」は、今も昔も、エンタテイメントの人気ジャンルとして量産・消費されてきた。 

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 文春オンラインで連載中のマンガ『悪いのはあなたです』もまた、そんな不倫エンタメの系譜に属するが、本作がフィクションに留まらない、ヒリヒリした痛みを漂わせているのは、そこに不倫に走らざるを得ない「現代女性の生きづらさ」が赤裸々に浮き彫りにされているからだ。

「守られた安全な世界で生きたい」と思う切なさ

 主人公の莉子は29歳。派遣社員として働きながら、バンドマンでフリーターのタクマを養っている。家賃5万8000円の2DKアパートでインスタントの袋麺をすする莉子の生活は、SNSで目にする東京のOLのキラキラ感とはかけ離れたものだが、「いつかいい暮らしをさせてやる」というタクマの言葉を一縷の望みに、宙ぶらりんな日々を過ごしている。

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 そんなある日、業績悪化を理由に突如、派遣先を解雇に。8万の貯金では家賃も払えないと焦り、一瞬、風俗で働くことを妄想。同じ派遣の既婚女性の「専業主婦になる」という言葉に「はーーいいなぁ、私も守られた安全な世界で生きたい」と結婚願望を募らせる莉子の姿が、切ない。

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 この令和の時代に、自分の未来を男任せにするなんて、主体性がないし、意識が低すぎる! と苛立つ人もいるだろう。だが、それなりの学歴も、才能やスキルもない女性が、経済的にも精神的にもひとりで生きていけるほど、社会は優しくはない。たとえできても、まだまだ結婚して子供を持たない限り、「女性として幸せ」とは認められない。ましてや、生まれてこのかたずっと不況の上にコロナ禍で、今後生涯、上の世代のツケを払わされる未来しか見えない今の20~30代の女性が、その両方を自力で手にすることは、なかなかの無理ゲーなのだ。