日本の、いや今では世界中のだれもが知っているキャラクター・ドラえもんが、あちらにもこちらにも。かくも無条件に無邪気な歓声を上げたくなる展覧会もまたとない。六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリーで開催中の、「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」だ。
「ドラえもん」をモチーフに腕を競う
「あなたのドラえもんをつくってください」
そんなお願いを国内外で活躍するアーティストに投げかけたところ28組が応じ、ドラえもんを題材に創作をしてくれた。その成果を一堂に見せているのが今展である。
参加作家の顔ぶれがすごい。村上隆、会田誠、奈良美智、森村泰昌、小谷元彦、鴻池朋子、山口晃、町田久美といった、日本の現代アートを牽引する名前がずらり連なっている。加えて蜷川実花、梅佳代、しりあがり寿、増田セバスチャン……。写真や漫画、アートディレクションなどのトップランナーたちも出品していて、華やかなことこの上ない。これだけのラインアップはなかなか揃わないはずで、ひとえに「みんな大好き」ドラえもんの存在感の大きさが成した業だろう。
しかも、ただ参加しているだけじゃない。出品作はドラえもんをモチーフにしたものに限っているので、基本的にどのアーティストも新作で展示に臨んでいる。見ればどれも力作だ。村上隆《あんなこといいな 出来たらいいな》は、巨大な画面に無数のドラえもんやのび太、その他の登場人物が描かれている。彼らの姿は実際のドラえもんシリーズの場面からとられたものなので、コミックやアニメに親しんできた人なら「ああ、あのシーン!」とピンとくるはず。
鴻池朋子《しずかちゃんの洞窟(へや)》は、しずかちゃんの部屋を洞窟に見立てて、妖しげな世界を構築している。近年彼女が取り組んでいる、革に絵を描く手法が採用されており、これが不思議なほどドラえもんのキャラクターたちとよく溶け合っている。
山口晃や町田久美は、ふだんの作品で見せる画風そのままにドラえもんを描いた。漫画やアニメのドラえもんとのテイストの違いを探すうち、ドラえもんの作者たる藤子・F・不二雄の描く絵の特長が見えてくるし、山口や町田の画家としての技量もはっきり感じ取れる。
ドラえもんそのものがアートである
見応えある作品が揃ったのは、まずはアーティストたちのドラえもんへの思い入れの深さゆえ。そしてもうひとつ、そもそもドラえもんとアートは相性がすこぶるよさそうである。
「あんなこといいな、できたらいいな」と夢や不思議、未来に思いを馳せるドラえもんの世界は、未知への挑戦を繰り返すアーティストの頭の中とすんなり接続する。ドラえもんがひみつ道具でもたらしてくれることは、アーティストが作品で実現させたいことそのものなのだ。
現代アートのグループ展として出色の出来。会場でいろいろなドラえもんと戯れていると、そうかドラえもんの存在こそ、戦後日本を代表するアートだったのだと気づかされる。