医師と患者の対話の場である「がん哲学外来」の現場では、いったいどんなことが行われているのでしょうか。「がん哲学外来」の第一人者・樋野興夫医師は、どんなプロセスを経て、がん患者や家族の悩みを「解消」するのか。その鍵となる「言葉の処方箋」についてお話を伺いました(全3回の2回目。#1が公開中です)。
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「がん哲学外来」で最初の15分は、病状を聞きます
――では、もう少し具体的に個人面談の様子を伺えますか。どの方も、病気の現状からお話しになることが多いのでしょうか。
樋野 はい。最初の15分くらいは、その方の病状を聞きますね。雑談を交えながら話していくうちに、本当の悩みは何なのか、なぜここへ来たのかが徐々にわかってきます。みなさん、他では喋っていないことを話すことが多いんですよ。悩みを解決したいというより、聞いてほしいという思いが強い。病気の不安、家族との関係、仕事の悩み……たくさんある中で、一番の問題は何なのか、本人も気づかないといけないんです。
「言葉の処方箋」は内村鑑三、新渡戸稲造、南原繁、矢内原忠雄の引用から
――悩みは一つではないということですね。そういう中で、「言葉の処方箋」は、どういう風に出すのでしょうか。
樋野 その方が発する言葉を聞きながら、さりげなく表情を見ていると、脳の引出しから、「この人にはこれ」という言葉が、だいたい5つくらい自然と出てくるんですよ。私は、若き日に読んだ先人たちの本を暗記しているんです。内村鑑三、新渡戸稲造、南原繁、矢内原忠雄という「先人4人」を主軸に、膨大な本を読んで線を引いたところを丸ごとね。
――「この人にはこれ」という言葉は、一人の先人から引用されるのですか。
樋野 いや、そうとは限らないよ。ただ、彼ら4人は皆、人間観察が鋭い。だから共通するものがあるんです。他にも、聖書やマルティン・ルターなど、先人以外の言葉を伝える時もありますよ。先人4人も、私もクリスチャンだから、ここも通じる部分があるんだね。