私は『うる星やつら』で“永遠の日常”を終わらせたかった
――それで言うなら、押井さんが先ごろ脚本を担当された『ルパン三世』も“歳を取らないキャラクター”で、ずっと続いてますね。
「私は30年ほど前、劇場版の『ルパン三世』をやりかけたんだけど、すぐにクビになっちゃった。制作サイドは何かを変えたくて私に声をかけたんだと思うけどね。ところが、それが今になって、こういう形で参加することになったわけだからおもしろい」
――『ルパン三世 PART6』で担当された2作のうち第4話「ダイナーの殺し屋たち」。ヘミングウェイをテーマにするのは意外でした。
「私、じつはけっこうヘミングウェイが好きで、それなりに読んでいる。そこで今回は彼の短編集『男だけの世界』で遊んでみた。そのなかに収録されている14本の短編のタイトルすべてを劇中に入れ込んでいる。たとえば『そういえば今日は金曜日だったわ』というセリフは、『今日は金曜日』から。そういう具合に、“ヘミングウェイごっこ”して遊んでみた。
でも、もう一話のほう(第10話『ダーウィンの鳥』)は、まるで異なる話で、かなりギリギリっぽい。よく許してくれたと思ったくらいだった……そうやって考えると、『ルパン』も“永遠の日常”を変えたいと思っているのかもしれない」
――“永遠の日常”といえば、押井さんが監督をしていた『うる星やつら』もそうでしたね。
「私は『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』(84)で、“永遠の日常”を終わらせたかった。決定的な作品を作れば終わらせることができるかもしれないと思ったんだよ。でも、結果としては原作者の高橋留美子さんに嫌われただけ。いや、嫌われたどころじゃなく、もう忌み嫌われたからね(笑)。まあ、一介の雇われ監督がそんなことできるはずもないんだけど、あの頃は私も若かったから(笑)」
――そういう作品を、作者自身も終わらせることができないとなったら、誰が終わらせるんですか?
「言うまでもなくメディアだよ。そのときはもう、作品はすでに作家のものじゃなくなっている。要するにエンタメに関していえば、メディアが力を持つようになった。そこに配信が登場し、よりその傾向が強くなった。
私に言わせれば、今や“配信様”。映画の公開も配信の都合によって変わるし、映画やドラマの製作も配信に合わせるようになる。視聴者のほうも、わざわざチケットをネットで予約し、電車に乗って劇場に行くより、自宅で好きなときに、好きな状態で観るほうがいいに決まっている。シリーズものだって、1週間待たなくて一気見できたほうがうれしいんじゃないの?
そうなると、最初の話に戻るけど、『デューン』のような作品だけは劇場で観ようと思う。何らかの付加価値がある映画じゃないと、劇場で観ようという気にならなくなったということだよ」
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2021年、押井監督が一番ハマったのは、じつはYouTubeだったそう。若い人たちの価値観を知るために観ていたという、“予想外のチャンネル”とは――。インタビューの全文は現在発売中の『週刊文春エンタ!』に掲載されています。
押井守(おしい・まもる):
1951年、東京都出身。映画監督。1977年にタツノコプロ入社。フリーランスとなってからは『機動警察パトレイバー 2 the Movie』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』『スカイ・クロラ The SkyCrawlers』などのアニメ映画を多数手がけ、映画監督のジェームズ・キャメロン他、国内外に大きな影響を与える。最新刊『誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版』発売中。