「文春エンタ!」恒例の企画、押井守監督に1年を振り返ってもらうお時間がやってまいりました。昨年までは“アニメ”に絞ってお話を伺っていたのですが、あまりに話が脱線するので今年は“エンタメ”に枠を広げます! さて押井さん、今年のエンタメはいかがでしたか?
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『007』シリーズとは『サザエさん』みたいなもの
――今年のエンタメで、押井さんがもっとも記憶に残っているのは何ですか?
「映画でいうと『DUNE/デューン 砂の惑星』しかない。自宅のモニターで観てもしょうがない映画だよ。なぜなら音響がすばらしいから。あの音響はどうがんばっても自宅では再現できない。劇場だからこその強みになる。
もう1本、違う意味で記憶に残っているのは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』。ダニエル・クレイグ・ボンドの最後の作品。私はこの映画、劇場まで観にいったけれど、はっきり言ってがっかりした。こんな終わり方がボンド・シリーズとして許されるのか? このあとシリーズをどうするのか? 長年のファンはみんなそう思ったんじゃないの?」
――押井さんは、もしかして“長年のファン”なんですか?
「別にファンじゃないけど、最初の『007 ドクター・ノオ』(62)からずっと観ていて、なんとなく同世代意識がある。当時、ボンドは私たち中高生の憧れだったからね。だって経費使い放題でしょ? 高級車を乗り回し、高級ワインを飲み、美女をはべらせ、ときにギャンブルに興じる。しかも、その金は全部経費の上に領収書もいらない。そりゃあ憧れますよ」
――ソコなんですか?
「もちろん、ソコだよ。決まっているじゃない(笑)。
でも、そうやって60年近くも続いてきた大人気シリーズが終われば、何かしらの感慨、時代が変わった瞬間を感じたりするものだと思うけど、そういう感情も湧かなかった。それは何を意味しているかといえば、すでに『007』は終わっていたということ。今となれば、とっとと冷戦が終わったときにピリオドを打っていればよかったと思うよね。
考えてみればボンドは、役者を代えつつ決して歳を取らないキャラクターとして存在していた。日本でいうと『サザエさん』みたいなもので、たとえ原作者が亡くなっても続いていく。今年、さいとう・たかを氏も亡くなったけど『ゴルゴ13』が終わるわけじゃない。おそらく掲載する漫画誌が続くかぎり継続される」