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大仕事をやってのけた「ダメ外国人」

 バックスクリーンを見ると上田利治氏が亡くなったことで、半旗が掲げられていた。19年前はファイターズの監督をされていたのを思い出した。やはり時間は長いこと経っていた。

上田利治氏を偲ぶバックスクリーン ©SAZZY

 試合は涌井秀章と山岡泰輔の投げ合いで始まった。山岡がほぼ完璧な投球をみせ、涌井も不安定ながら要所を抑える投球だったが、5回に先制されてしまう。

 山岡攻略の糸口がなかなか見えない中、迎えた7回、先頭打者はジミー・パラデス。このパラデス、とにかく打てなかった。まずい守備も連発した。が、6月にベイスターズの山崎康晃からホームランを打ったあたりから打撃が上向き始め、メジャーでも守ったことがないファーストの守備に取り組み出場機会を増やしていた。またペーニャ加入後からものすごく明るくなり、練習中は二人で走ったり話したり、そしてベンチから声を出すようになっていった。ミスをした選手を励ましたり、ベンチのムードを明るくしようと努めていた。

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 そのパラデスが誰もが打ちあぐねていたスライダーをフルスイングした。打たれた山岡が苦笑いするほど体勢が崩れていたが、打球はバックスクリーン右へと吸い込まれていった。同点ホームランだ。

 スタンドはお祭り騒ぎだった。ハイタッチとハグの嵐、そしてジミーコール。私も妻以外の人と久しぶりに強く抱き合った。相手は男だったが。「ダメ外国人」と揶揄された男が大仕事をやってのけた。

 この試合はBクラス同士のただの1試合だ。だが、それ以上の意味をファンが知っている。黒く膨れ上がったレフトスタンドのボルテージがガンガン上がっていった。

 9回、バファローズは守護神の平野佳寿を繰り出してきた。が、満塁とすると19年前を知る福浦和也がレフトに犠牲フライを打ちマリーンズが勝ち越した。その後さらに井口資仁が押し出しの四球を選び2点リードとなった。

 9回裏、マウンドには内竜也。この時点で3対1。点の入り方は違えど、スコアはあの時と同じ。しかも一人ランナーを出してしまった。2アウトとなり打席には小谷野栄一。一発のある打者。妙な緊張感がスタンドを支配した。頼む、一発だけは勘弁してくれ!

 が、杞憂に終わった。初球を打ち上げ試合終了。試合日程はある意味巡り合わせとはいえ、19年の時を経てようやく「やり返す」ことができた。

 スタンドのマリーンズファンは破顔一笑。中には19年前のことを思い出していたのか泣いている人もいた。負けの象徴だった「神戸の七夕」を塗り替えることができた。

 この試合の立役者パラデスは、その後オールスターまでは好調だったものの、後半戦から急激に調子を崩し二軍落ち。伊東勤監督最後のマリンでの試合でホームランを打つなど印象に残る活躍はあったもののトータルで活躍することができなかった。11月28日に契約解除を言い渡された。実は関西での試合はものすごく相性が良く8試合で31打数11安打、打率3割5分4厘。どうしてもそれがあるので堂々たる主砲のイメージがある。彼がいなければ七夕の試合も勝てなかった。来年もそのナイスガイっぷりを見たかった。

7月7日のオリックス戦、7回に同点本塁打を放ったジミー・パラデス

 結局この後もマリーンズは浮上のきっかけを掴めないまま最下位でシーズンを終えてしまったが、何もかも悪かっただけじゃなかった。ダメだダメだと言われた人が長年のトラウマを和らげ、この日集まったファンに歓喜の瞬間を与えてくれたのだから。

 来年はきっとその歓喜が長く続くことを願い応援したい。負けた歴史があったとしても、いつまでもやられっぱなしではいられない。

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