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品質に問題がないことはお互いにわかっている

 製造ラインで規格にはずれた製品ができることはよくあるそうだ。いずれも取引先の部品メーカーなどに要求の規格を下回ったことを正直に伝え、お互いが合意して出荷していれば問題はなかった。規格を下回った製品でも特別に採用してもらう「トクサイ」は、素材メーカーとの取引では日常的に行われている。

 「これ、ちょっと規格を下回っちゃったんだけど、どうする?」

 「仕方ないな。今から作り直すのでは納期に間に合わないから、そのまま納入してよ。その代わり、値段は安くしてもらうよ」

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 素材メーカーと取引先の部品メーカーなどの間では、こんな会話が日常的にあるという。素材の寸法や強度が多少ずれていても、品質に問題がないことはお互いにわかっているので、そんな商談が成立するそうだ。「アウトレット品のようなもの」と関係者は解説する。

神戸製鋼の川崎博也社長 ©getty

売り上げを増やしたいから、トクサイを正規品と偽る

 問題なのは、素材メーカーにとってトクサイは正規価格からの値引きとなるため、売上高が少なくなることだ。できるだけトクサイを少なくして、売り上げを増やしたいのが素材メーカーの本音だろう。そこで、面倒な取引先との交渉を省き、検査データを改ざんして納入する不正が横行する結果となった。トクサイという商慣行がいけないのではなく、本来ならトクサイであるべき製品なのに正規品と偽ったところに問題の本質がある。

 神鋼は不正の原因について「当社は厳しい経営環境の中、収益重視の評価を進めてきた。収益貢献を強く求めるあまり、生産や納期を優先する風土が生まれ、検査の軽視が許容された」などと中間報告に記している。

東レ記者会見 ©getty

「緩い社風」から「新自由主義的な成果主義」に変わった神戸製鋼

 神鋼のベテラン社員によると、1990年代前半くらいまで神鋼は「緩い社風」だったそうだ。しかし、冷戦終結後のグローバル化で国際競争が激しくなり、鉄鋼もアルミも業界再編が進み、「社内が新自由主義的な成果主義に変わった」という。工場では高い生産目標が立てられ、規格外品を少なくすることが求められた。

 神鋼の幹部も「過剰な生産目標や納期が不正を促したという見方もある。現場には生産へのプレッシャーがあったのではないか」と漏らす。神鋼、三菱マテリアル、東レとも本格的な原因究明はこれからだが、トクサイだけでなく、過度なコスト競争、収益優先の経営が生産現場に不正を生んだ可能性は高い。