本当に面白い漫才は、映像を見ずに音で聞くだけでも面白い。ではオリンピックのような競技はどうか。実は、北京五輪の中継でも見つけてしまったのだ。音だけでも面白い解説者を。

 その人は、元女子アルペンスキー日本代表の清澤恵美子さんだ。彼女の解説の特徴は、一言でいうと「増田明美さんのような選手のオフ情報」と「FMラジオのパーソナリティのような心地の良いテンションの高さ」だ。

「彼女は腰痛持ちなんで、大回転は常にスキップして、スラローム(回転)に専念してます」

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「トルッペ選手がインスタグラムで、今回の大回転2本目で4位に落ちて、『4位の私はこの地球上で一番幸せな女の子だ』と。『4位をすごく誇りに思う』って書いていたんですね。

 4位だと『メダルが取れなくて残念』って言われるところを、『地球上で一番幸せだ』と言っていたことが印象的で。本当にすごいことなんですよ。4位ってことですら」

 それでは、清澤さんが解説を担当した女子大回転と回転の中継を見ていこう。
 

現役時代の清澤恵美子。全日本選手権で3勝、FIS(国際スキー連盟)大会では55勝を挙げている ©AFLO

増田明美さん風でも小ネタに走らない

 2月7日に行われた女子大回転の中継を、私は最初洗濯物を干しながら流し見していた。その後、テレビを大音量にして台所で洗い物をした。アレ? 画面を見ていないのに、すごく状況がわかる。

 旗門を通るたびに、選手は「ザーッ」というスキー音をリズミカルに立てる。アルペンスキーはとにかくスピードが速い。スキーの音が、まるでリズムマシンで作ったトラックみたいだ。その上に、手練の実況アナウンサーの声。そしてハリがあって、トーンがやや高めな女性の小気味よい解説が乗る。

 アナウンサーと解説者の声が、絶妙にスキーのリズムに乗っている。なんだ、この音楽的な心地よさ。解説者が短いセンテンスで状況を説明してくれるせいか、私は画面を見ていないのに選手の滑りがめちゃくちゃ頭に入る。

「この解説者とアナウンサー、誰?」と思い、台所で手を拭きながらスマホで調べたら、清澤恵美子さんとNHKの太田雅英アナウンサーだった。

 普段大相撲を担当している熟練の太田アナが、足を雪に取られる選手を見る度に「ああっ!」と声を上げるのが新鮮だ。その都度、太田アナを落ち着かせる母のように「大丈夫ですよ~」と合いの手を入れる清澤さん。競技中は太田アナがリアクターで、解説の清澤さんが太田アナのリアクションを受けている。

 選手がコースアウトするなどして、競技に少し間が空くと、清澤さんは自然と選手のオフ情報を入れてくる。増田明美さんのように「取材をしすぎてしまい、もはや小ネタの園に行き着いてしまった」感じではなく、女性アルペンスキーヤーの生活感や息遣いがわかる。