食堂で今朝会った時のトップ選手の様子、いつも清澤さんのことを「オンニ(お姉さん)」と呼んでくれる韓国選手のこと。アルペン競技はヨーロッパが本場のため、韓国選手も日本の選手も練習場所を求めて海外を転戦することが多い。競技を続ける上での過酷な選手の事情も、さらっと話してくれる。
清澤さんはパーソナリティが確立されたFMラジオのDJのようだ。彼女が伸び伸びと選手の人柄を語る度に、今度は太田アナが「清澤さん、ネタ持ってますね~」と合いの手を入れる。競技中は太田アナがリアクターで清澤さんが受け手。中断中は清澤さんが自由なトークをし、太田アナが受け手に回る。攻守が交互に入れ替わる笑い飯の漫才のようで、清澤さんと太田アナのコンビはちょっとした話芸のように聞こえた。
1人の女性アスリートとしての目線も
清澤さんの解説は、まったく女子大回転を見る気のなかった私でも、すんなりとその難しさが頭に入った。アルペンスキーの見方がわからない素人視聴者にもわかりやすく音で説明してくれるのでありがたい。
「旗門を曲がる時に『ガガガガッ』という音を出す選手はスキーを横にしすぎているため、板のエッジで氷を切れずに、滑ってしまって減速しているんですね」
「ゲートを通る時に、腕を上げるのがわかりますか? 巻き込むようにというか、猫パンチするように」
「トップ7の選手に比べて、旗門を通る度に身体を左右に振っているのがわかるでしょうか。キツそうに滑っていると言いますか。『おっとー!』というような。『よいしょー!』というような。そんな滑りにどんどん変わっていくんですね」
身体の力をスキー板にどう伝えるか、雪面をどう切るのか。その時、上半身はどうあるべきか。スキー板の角度の難しさがとてもよくわかる解説だった。
コース説明も巧みだ。北京五輪の大回転コースは、とびきり難度が高かった。急斜面→緩斜面→急斜面の連続で、スタート直後の斜度は36度。モーグルの斜度が27~28度なので、いかに厳しい斜面かがわかるだろう。スタート地点の急斜面はアイスバーンなのだが、どうしてその硬さが生まれたのかを詳しく説明している。
最初の急斜面は、人工降雪機で乾いた密度のある雪の上に水を撒いたため、カチカチに凍っていること。次の緩斜面はほぼ人工降雪機の乾いた雪質のみ。比較的すべりやすいが、最初の急斜面と同じように滑っているとタイムが落ちる。最後の急斜面が始まるところはゴール地点が見えない。よって選手は恐怖を感じるなど、自分が選手に成り代わって滑るような気持ちでコース状況を教えてくれる。
そして清澤さんは、斜度がキツいというアナウンスを何度も繰り返す。映像ではこのコースの過酷さが上手く伝わらないのだ。太田アナも「素人目に見たら、ゴール地点の急斜面はもはや壁のようです」と付け加える。女子大回転2回目、全選手の滑走が終わった時、清澤さんは気持ちを込めてこう言った。
「この難しいコースを滑りきった選手を褒めてあげてほしいです。もちろんコースアウトした選手も攻めた結果です」
一人ひとりの選手がどうかベストを尽くせますように。祈るような気持ちで解説しているのだ。