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「営業的スマイルとか一切ない」

「初めてお会いした時から、不思議と緊張しない。例えるなら家族みたいに自然でいられる人です。それでいながら、ふと舞い降りてそこにいて、どこかへ消えてしまいそうな、掴みどころのなさもまた魅力です」

 14歳でモデルデビューした当時は、「自分のことを観ないでほしい」と言うほど恥ずかしがり屋だった。03年の初主演映画『blue』の安藤尋監督は、オーディションでの彼女の佇まいを強く記憶している。

「自然というか、まんまそこにいる。営業的スマイルとか一切ない。受かろうが落ちようがどうでもいいというか(笑)。演技指導しても『はあ』と曖昧な返事をするんですけど、実は真面目で一生懸命。台本はすべて頭に入っていたし、鉄棒をする場面では、炎天下で手の皮がめくれるほど練習してくれました。本心はうちに秘めている、(高倉)健さんみたいな人なのかも」

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モスクワ国際映画祭の立派なトロフィーを落っことして…

 同作でモスクワ国際映画祭最優秀女優賞を受賞する。

「授賞式ではロシア語が誰も分からないので、みんなでボーッと見ていました。するといきなりミカコイチカワと呼ばれて、訳も分からず壇上に上がって。囲み取材でやっと女優賞だってわかった。立派なトロフィーを頂いたのですが、帰国する日かな、落っことして先が曲がってしまって。『あ、曲がっちゃった』と。それもなんだか市川さんらしくて、誰も憎めない」(同前)

 

 自著『午前、午後。』(角川書店)では、賞への喜びと戸惑いを記している。

〈このトロフィーは、今までの自分の歩いてきた道に咲いた一輪のお花。このまま歩いて行きなさい、と言ってくれているように思う〉

 受賞から約20年。そのまま歩いてきたから、今の彼女がある。