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 それが心変わりしたきっかけは、オーディションの合宿審査の際に、ひとりで大勢の人の前で歌ったことだった。彼女いわく《初めて人前で何かをするってこんなに楽しいんだと思いました。この快感、その瞬間だけ自分じゃないみたいな感じは忘れられないなって》(※2)。このとき覚えた快感が、彼女を芸能の道へ歩ませることになる。

綾瀬はるかの「義理の娘」を熱演

 グランプリ受賞の翌年、2012年には東野圭吾原作のドラマ『分身』で俳優デビューした。一般的に広く知られるようになったのは、2018年に放送された『義母と娘のブルース』で、綾瀬はるか演じる主人公の義理の娘を演じたあたりからだろうか。

 俳優業と並行して歌手としても活動する点も姉と共通する。2017年公開の映画『ナラタージュ』では主題歌(野田洋次郎作詞・作曲)をadieu名義で歌い、CDもリリースしている。当初、歌手が上白石であることは伏せられ、2019年に同名義で音楽活動を始めるのを機に自らツイッターで公表した。すでにアルバムを2作リリースし、今月11日には新曲「旅立ち」の配信が始まった。

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『義母と娘のブルース 2022年 謹賀新年スペシャル』

 歌声だけ聴くと、演じているときの彼女とはまた違った印象を受ける。『ナラタージュ』の主題歌も、映画公開時に上白石が歌っていると気づいた人は少なかったのではないか。彼女にとっても歌うことは演技するのとはまるで違う感覚らしい。昨年のインタビューでは、《話し言葉では表現し切れないものを、歌うことによって成仏させるような感覚というか、声に乗って自分の中身が見透かされてしまうというか……。歌う時は役という鎧(よろい)を外した状態なので、裸で立っているような孤独感があります》と語っている(※3)。

細田守監督にオーディションで呼び止められて…

 声といえば、2018年公開の細田守監督のアニメ映画『未来のミライ』では、主人公の4歳の男の子・くんちゃんを演じ、声優が彼女だと知るまで気づかないほど役にハマっていた。同作のオーディションはくんちゃんの妹のミライ役で受けたのが、帰りがけに監督からくんちゃんもやってみてほしいと呼び止められたという。

《このときは4歳児ということを意識した声と、わりと素のままの声2パターンやらせていただいたんですが、「素の声の方がいい」と言ってくださって。役との年齢差はあるけれど、4歳のときと今とで変わらないものが根底にあるんじゃないかと感じて、収録のときにもあまり幼く作らずに演じるようにしました》と映画公開時に明かしている(※4)。素に近い形で表現したという意味では、歌うのと似たものがあるのかもしれない。