2022年1月に放送されたJR東海の 新CM『会うって、特別だったんだ。』がある世代の心を打つのは、深津絵里が33年前に出演した同じJR東海のCM「クリスマス・エクスプレス」の記憶を思い起こさせるからだ。

 1988年のクリスマスイヴの夜に恋人を待っていた少女の記憶と、2022年のコロナ禍を生きるワーキングウーマンの映像は、深津絵里という1人の俳優によって視聴者の中で1本の線で結ばれる。それぞれの世代に同じ時代を生きた象徴として同世代に記憶される特別な俳優が存在するが、深津絵里も間違いなくその1人だろう。

深津絵里 ©getty

18歳を見事に演じ切ってしまった

 連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の中で彼女が演じる二人目のヒロイン、るいは1944年生まれの設定だ。

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 48歳(撮影時。現在は49歳)で18歳を演じるという第二部の始まりには本人も多少の戸惑いもあったようだが、始まってみれば驚くほど違和感がなく、若き日のるい、そしてオダギリジョー演じる大月錠一郎との出会いのシークエンスを見事に演じ切ってしまった。これは深津絵里の外見が若々しいこともあるが(日本中の化粧品会社がアンチエイジング商品のCMに彼女を起用したくなったことだろう)、るいを表現する演技の巧みさも光っていたと思う。

 年長の俳優が若者を演じる時、つい溌剌とエネルギッシュに演じたくなるものだが、アメリカに去った母親に対して複雑な感情を抱えたままのるいは、額の傷を前髪で隠す内向的な娘として描かれる。あえて声のトーンを静かに抑えた深津絵里の演技は、他人に対して容易に心を開けない若いるいの心を繊細に表現していた。

クリーニング屋の看板娘を演じた(NHK「カムカムエヴリバディ」より)

 昔から深津絵里の演じるヒロインには、どこか真面目で不器用な女性が多かったような気がする。映画『悪人』でモントリオール世界映画祭女優賞、舞台では紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し、ヒロインの恩田すみれを演じた映画『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』はいまだに日本の実写映画の興行収入記録トップに君臨している。

 人気実力ともに圧倒的な実績がありながら、華やかなスーパースターというよりは、現実のオフィス街ですれ違ってもおかしくない地に足のついたリアルな女性像を演じられるのが深津絵里の強みだった。