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 第2部が終盤に入り、娘のひなたを育てる母親としてのシークエンスに入り、深津絵里の演技は静かにギアを変えつつある。生活に追われ、娘を叱るるいの声には、繊細な自意識を抱えた若き日のるいにはなかった働く母親のタフな生命力が宿り始める。

 ああそうか、第二部が終わってからが深津絵里の本領なのか、と今さらながら気がついたのは、徐々に役と俳優の実年齢が近づいていく中で、演技がスムーズにシフトするのを見ながらのことだ。

2人目のヒロインが深津絵里でなくてはならなかった

「川栄李奈演じる3人目のヒロイン、ひなたにバトンタッチ」と各紙が報じる通り確かに物語の主人公は三人目のひなたに移っていくだろう。だが、第1部の終わりと共に物語から姿を消した安子に対して、るいはそのまま「主人公の母親」として第3部に残るのだ。

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 これまで、朝ドラのヒロインが母になり、そして晩年を演じることは数多くあれど、それは通常、最終回まで主演女優として演じる上でのことだった。物語の途中で1人のヒロインが主演女優から助演女優にシフトし、バイプレイヤーとして次世代のヒロインを支えるというのは珍しい構造だ。

深津絵里 ©getty

 だから深津絵里だったのか、と第3部の始まりを見て思う。現時点で物語の時間はサブタイトルが示すように「1983」、初代ヒロイン安子が誕生した1925年からまだ60年弱しか経っていない。

 いつもの朝ドラであればヒロインが生まれて60年経てばもう終盤だが、『カムカムエヴリバディ』はプロデューサーが繰り返し述べるように「100年の物語」と銘打たれている。安子の誕生から100年で現在の2022年に近づくと考えれば、物語にはまだまだ40年近い時間が残されていることになる。深津絵里が18歳を演じた第2部の始まりは、第3部の実年齢、さらにそれを超えた実年齢以上の未来を演じる先の先までも想定したキャスティングだったのだろう。

「100年の物語」の中で最も広い中盤の時間を支える2人目のヒロインが、シンボリックな人気と演技力を兼ね備えた48歳の深津絵里でなくてはならなかった理由が、今になってよくわかる気がする。

NHK「カムカムエヴリバディ」より

 物語の先はまだ見えない。空襲、夫の死、敗戦と占領という激動の第1部に対して、第2部は比較的静かなシークエンスだったとは言える。だがその中で、るいは心の傷を癒やし、自分の力で回転焼き屋を営んで家族を養うという、第1部で安子が望んでも叶えられなかった自立の夢を実現している。

 アメリカが生んだ音楽、ジャズは錠一郎とるいの縁を結ぶように物語を流れ、そして3人目のヒロインひなたは再び英語と出会う。あんこ、サムライ、という日本のモチーフと、英語、ジャズというアメリカのモチーフが、DNAの二重螺旋のように絡み合う物語は、第3部でどのような展開を見せるのか。