筑前煮食べたい。杉咲花の作った筑前煮。『ボクらの時代』(フジテレビ系)を見てそう思った人も少なくないだろう。
杉咲花が広瀬すずと清原果耶とトリプル主演した映画『片思い世界』(脚本:坂元裕二、監督:土井裕泰)の番宣で杉咲、広瀬、清原が『ボクらの時代』(4月6日放送回)に集まった。本音で語る人気トーク番組だ。3人の飾らない会話のなかで、『片思い世界』の撮影現場へ、料理好きな杉咲が筑前煮を作って持ってきたと語られた。世代が近い3人の共演はそれなりに緊張感もあったようで、まだ慣れない時期、なにかを知ってほしい、仲良くなりたいという気持ちで作ってきたのだと杉咲は振り返っていた。
杉咲花と食は相性がいい
『片思い世界』では美咲(広瀬)と優花(杉咲)とさくら(清原)の3人が12年間、東京の片隅の一軒家で共同生活をしている。彼女たちは家族でも姉妹でもないがとても仲良しで、間にはほかに誰も入れそうにないほど常に一緒。そんなあるとき、3人が聞いていたラジオから謎の呼びかけがある。
「あなたの大切な人に会うんです。そして思いを届けてください」。
3人はそれぞれの会いたい人を思う。美咲にとって大切な人は、バスでいつも乗り合わせる高杉典真(横浜流星)。優花にとって大切な人は母親・彩芽(西田尚美)だった。さくらのことはここでは触れないでおく。12年間離れていた母親を偶然見かけた優花は、あとを追いかけた。だが、母には新しい家族――夫と小さい娘がいて。美咲たち新しい家族への引け目もあるし、この映画最大の「仕掛け」のせいもあり、優花の切ない思いは母になかなか届かない。もどかしいという言葉では足りないほどの思慕を優花は味わう。昔には戻れない。決定的な悲しみを体験する場所はキッチン。そしてかすかに残る希望のアイテムはある食べ物。『片思い世界』は女性3人のユートピアのような共同生活を描きながら、優花のパートでは家庭に回帰する。
さすが、家庭料理・筑前煮を作る杉咲花が演じるだけある。そういえば、彼女が注目されたのは、味の素「Cook Do」のCMで、山口智充とともに回鍋肉を美味しそうに平らげる表情で、一気に好感度をあげたのだった。その後放送された、小栗旬と神木隆之介と杉咲がきょうだいに扮し、味噌汁を飲む「ほんだし」のCMの印象もすこぶるよく、杉咲花と食は相性がいいのである。
「杉咲花と食」の決定版といえば、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(2024年、TBS系)の朝子が思い浮かぶ。高度成長期の端島(軍艦島)の庶民的な食堂で看板娘として働く姿がどハマリしていた。シニア層にしか伝わらない例えかと思うが、広瀬すずがミューズ・吉永小百合の令和版とすれば、杉咲花は朝子役によって下町の太陽・倍賞千恵子の令和版になる可能性を拓いたといってもいいのではないか。