ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから約1週間。刻々と変化する戦況や現地での痛ましい被害が伝えられるなか、未だに見えないのが「プーチン大統領の思惑」だ。プーチンは何を求め、どんなシナリオのもとでこの侵攻を行っているのか。
そこで、防衛省防衛研究所でロシアの安全保障について研究している山添博史氏(主任研究官)にインタビューを行った。全面侵攻が始まった2月24日、報道番組「news every.」(日本テレビ系)に出演し、「ロシアの嘘を許してはならない」と強く語った山添氏は、現在のウクライナ情勢をどう見ているのか――。(全2回の2回目/前編から続く)
※インタビューは3月1日夜に行いました
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――今回の侵攻によって、ウクライナ国内では反ロシア化が顕著になっています。そうした状況では、仮に一時的にロシアが制圧できたとしても、長期的にウクライナを服属させることは難しいのではないでしょうか。
山添 常識的には、仰る通りです。ただ、先ほどお話ししたプーチンの精神構造の可能性(前編参照)のうち、感情的になっているパターン1や3の場合であれば、そうした状況は度外視しているでしょうし、パターン2の「合理的に計算された狂気」の状態であっても、過去の歴史から「ウクライナはモスクワが叩けばそれなりに統治できるんだ」と思い込んでいる可能性があります。
ウクライナの中にもロシアに通じるソース(人脈や情報源)がいっぱいあるんですが、そうした人たちも「叩き潰せば統治できますよ」と言っているのでしょう。彼らもそうとしか言えないですから。ただ、そうした声を聞いて、プーチンは「そうか、抵抗するといっても、力を見せればウクライナは屈服するのか」と、誤った判断をしている。
……今回の侵攻が、誤った判断のもとで行われているというのは、これは確実に言えることです。だからこそ、2月26日くらいには制圧していたはずのキエフが、まだ制圧できていない。なぜなら、ウクライナ軍がちゃんと抵抗できているから。これは、誤算だったはずです。
もう一つの“誤算”
――他にも、プーチンにとっての誤算はあったのでしょうか。
山添 西側諸国の対応という意味では、SWIFT(国際銀行間通信協会)排除という、自身にも痛みを伴う経済制裁を西側が行うことができた、というのも誤算だったと思います。その可能性については考えていたかもしれませんが、西側がここまで団結するとは思っていなかったかもしれない。それは、西側が団結する前にキエフを制圧し、既成事実を作って降伏させられる、という前提だったはずだからです。
キエフを制圧した後だったら、欧米から制裁を受けてもしばらく耐えていける、と計算していたのではないでしょうか。クリミアを制圧した2014年からもそうだったじゃないか、と。なので、経済制裁の効果や欧米の結束具合については、誤算があったと思います。
――今回のウクライナ侵攻と2014年のクリミア併合には、どんな違いがあるのでしょうか。