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「勝てるようにやっているとは思えない」専門家も戸惑うウクライナ侵攻…プーチンは“狂気の独裁者”になったのか

防衛研究所・山添博史氏インタビュー #1

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 ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから約1週間。刻々と変化する戦況や現地での痛ましい被害が伝えられるなか、未だに見えないのが「プーチン大統領の思惑」だ。プーチンは何を求め、どんなシナリオのもとでこの侵攻を行っているのか。

 そこで、防衛省防衛研究所でロシアの安全保障について研究している山添博史氏(主任研究官)にインタビューを行った。全面侵攻が始まった2月24日、報道番組「news every.」(日本テレビ系)に出演し、「ロシアの嘘を許してはならない」と強く語った山添氏は、現在の情勢をどう見ているのか――。(全2回の1回目/後編に続く

※インタビューは3月1日夜に行いました

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――ロシアがウクライナに侵攻してから6日が経ちました。ロシアの安全保障を専門とされる山添さんにとっても、やはりこの事態は想定外のものだったのでしょうか。

山添 2月21日の夜にロシア連邦がウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認したことが、まず想定外でした。これは“戻れない決定”だったからです。これ以前には交渉の余地がまだ残されていましたが、この決定を受けて、私も初めて軍事作戦を予期しました。

 ただ、その時点では、軍事作戦はウクライナ側や西側に徐々に責任をかぶせる形で高まってきて、東から作戦が始まるのだと思っていました。つまり、まずはドネツク、ルガンスクにロシア部隊が彼らの正当性をもって入ってくる。ロシアはそこで「ウクライナ軍が攻撃をしてきた」と言って、ウクライナ側からの侵略に対抗するという大義名分を掲げて、戦いを始める。こうすれば、ロシアはキエフの北からもクリミア半島からも攻撃ができるようになります。そしてウクライナの降伏を目指す――というシナリオを、私は想定していました。

プーチン大統領 ©AFLO

 しかし、実際には「ドンバス(ウクライナ東部)だけの特別軍事作戦」を名目にしながら、すぐに全面軍事作戦になってしまった。そもそも、24日のプーチン大統領の開戦演説も、一段落ごとにすべて嘘なんです。誰もこれのために戦えるなんて、命を捨てるなんてとても思えないような嘘になっている。

 今、ロシア国内では報道規制がされていて、「ウクライナとは戦争になっていない」「ドンバスにウクライナのファシストやネオナチが攻撃をしかけているため、限定的な作戦をやっている」などと、全く事実と異なる情報を流しています。でも、実際にはキエフなどで地上戦が行われていて、ウクライナによるとロシア側にも既に4300人の死者が出ている。このリアリティと、ロシア国内でプーチンが述べている戦争目的とのギャップがありすぎて、勝てるようにやっているとはとても思えないんです。

「先週以前のプーチンともだいぶ違う」

――プーチンが何を考えているのかわからない、と。

山添 指揮官として、軍隊にちゃんと正当性を与えていないというのがとても非合理です。これも私にとっては予想外でしたし、我々が「怖い」と感じる最大の理由です。この非合理さは、先週以前のプーチンともだいぶ違う、と感じています。

――そうしたプーチンの非合理さは、どう捉えればいいのでしょうか。既に、プーチンの精神状態を懸念するような声も出てきていますが。

山添 私が思いつく可能性は三つあります。