2024年12月に戒厳令を出したことでも知られる韓国大統領の尹錫悦氏だが、実はパートナーである金建希氏も政局に影響を及ぼすほどの「いわく付きの人物」であることをご存知だろうか? 彼女が批判を集める理由を、朝日新聞元ソウル支局長の牧野愛博氏の新刊『韓国大乱』(文春新書)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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妻の金建希は「顔も経歴もすべて真実がない女」
尹氏は検事時代、仕事と酒に没頭し、50代になるまで結婚しなかった。周囲が心配して引き合わせたのが、海外美術品の展示・企画を手掛ける会社代表を務めていた金建希氏だったとされる。別に、尹氏と金氏の母親同士が、ソウル南部の高級マンションのご近所同士で、それが縁で親しくなったという説もある。
美しい容貌から、口さがない連中は「美容整形のおかげだ」と騒いだ。2024年12月の戒厳令当時も、「金氏は美容整形の病院に通っていた」と噂する野党議員もいた。
一方、夫の尹氏の大統領選出馬を巡り、共に民主党は金建希氏について、2007年に提出した水原女子大学の教員採用応募書類や、2013年に安養大学に提出した履歴書などに虚偽の記載があったという疑惑を提起した。このため、尹政権発足当初から、金建希氏を巡っては「顔も経歴もすべて真実がない女」などという誹謗中傷が飛び交う事態になっていた。
尹政権などの保守陣営はこれに対抗。当初は、「ゴンサラン」という金建希氏のファンクラブを立ち上げた。韓国語で「建希、愛している」を意味するファンクラブが、ネット空間で、庶民的な価格の服や装飾品を品よく着こなす金建希氏のイメージを上手に拡散させた。自然と、「おしゃれ」「庶民的」などの声が上がっていった。
だが、野党・進歩陣営は追及の手を緩めなかった。その第一弾が、「高級バッグ授受疑惑」だった。2023年11月、韓国のユーチューブチャンネル「ソウルの声」が、2022年9月に在米韓国人牧師が撮影した隠し撮り映像を公開した。黒縁のメガネをかけ、白いTシャツ姿の金氏が「アウー」と嬉しそうな声を上げる。「こんなことをしないで。本当にしないでください」。
テーブルにはブランド品の包みが置いてあった。牧師は韓国メディアに、ブランド品は「ソウルの声」が300万ウォン(約30万円)で購入したクリスチャン・ディオールのポーチだったと明らかにした。金氏はポーチを受け取ったままで、野党は法律違反の疑いがあると糾弾した。
2024年2月の韓国の旧正月連休での話題の中心は金建希氏だった。ソウルの知人は酒席で「大統領警護室は最近、大統領の顔に傷がつかないか懸念を募らせている」という小話を聞いた。理由は「金建希氏がヒステリーを起こして、尹大統領に物を投げつけないか心配だから」というものだった。
その後のテレビ番組で尹氏は金氏を巡るスキャンダルに言及し、「はっきり断れなかったことはやや問題と言えば問題だ。少し残念だった」と語ったが、謝罪はしなかった。逆に「(隠し撮りは)政治工作だ」と批判した。
いったん鎮火したと思われた金建希氏を巡る疑惑だったが、次に「ドイツモーターズ株価操作疑惑」が持ち上がった。

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