茨城県の大井川和彦知事をはじめ、副知事や部長級職員によるパワハラ疑惑が問題視されている。一連の報道に先がけて茨城県の問題を取材し、「心を病む職員たち」の現状を伝えてきたジャーナリストの小林美希氏による「ルポ・イバラキ」(月刊「地平」1月号)を紹介する。(全2回の2回目/前編より続く)
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「儲ける行政」
大井川知事の下、「新しい茨城」作りとして、「豊かさ」「安心安全」「人財育成」「夢・希望」の4つのチャレンジを行なう「茨城県総合計画」(2018~21年)が策定された。現在は「第二次茨城県総合計画」(2022~25年)の目標が掲げられている。
具体的には、「本社機能移転にともなう県外からの移転者・新規採用者数」を2020年(2018~20年累計)の1016人から2025年(22~25年累計)に1360人にする。「本社機能等の移転等をともなう新規立地件数」を同様に126件から160件へ、「県の支援により進出した外資系企業数」を15件から42件へ、「工場の立地件数」を196件から220件へ―などの数値目標が設定されている。
県が公表する主要指標等実績一覧では、「県外企業立地件数」(2023年で47件)が7年連続で全国1位、「工場立地件数」(23年で75件)が全国1位、「パートナーシップ宣誓制度」が都道府県で全国初などがPRされている。そのなかで注視したいのが、「本県情報のメディアへの掲載による広告換算額」(23年で165億円)が過去最高を達成したというもの。自治体議員や県民らが言う「全国初と言ってマスコミが注目すればよいという印象が強い」という指摘とつながる。
2024年7月の定例会見では、救急搬送で緊急性が認められなかった場合に「選定療養費」の徴収を行なうという方針を発表した。「選定療養費」とは、かかりつけ医などを通さずに大病院を受診した際に支払いが求められる費用だが、それを救急搬送に当てはめるというもの。2024年12月2日から開始され、緊急性が認められない場合は県内22の大病院で7700円以上の選定療養費の支払いを求められることになった。これも県単位では全国初の取り組みとされる。医療現場では複数の医師が「料金徴収を気にして、本来は搬送されるべき患者の搬送が減って手遅れになる。緊急性があるかどうかは医師が診なければ分からない場合がある」と懸念している。
「スピード感」重視の一方…
大井川知事が重視する「スピード感」をもって「新しい」ことが次々と行なわれる一方で、「地域の歴史や風土、文化についてまるで関心がないのではないか」と県内各地の住民があきれている。
水戸にある偕楽園への県外在住者の入園が有料になったのは2019年。偕楽園は旧水戸藩主の徳川斉昭によって「民と偕(とも)に楽しむ」と作られた歴史がある。金沢市の兼六園、岡山市の後楽園への入園は有料で、水戸の偕楽園だけが無料で入ることができたことを誇りとしていた県民も少なくない。2019年8月に入園料の徴収が決められ、11月から高校生以上の大人が1人300円、小中学生は150円の徴収が実施された。2024年10月には入園料が値上げされた。維持管理コストに年間4億円ほどかかっており、自治体議員らは「有料化するために門を閉じて管理するなど、かえってコストが増えたのではないか」と疑問視する。
名勝として知られる水戸偕楽園は「民とともに楽しむ」由来ながら、大井川知事のもとで有料化された。