最初の1枚の被写体になったのは…?
小野が撮る高校生は、決して楽しげには見えない。
むしろどこか物憂げなようでさえある。一筋縄には読み解けないその表情の奥に、見る者は様々な想像を巡らしてしまう。
当初は、高校教諭をしている友人に協力してもらって被写体を募った。学校の駐輪場で撮られた最初の1枚の被写体になったのは、ルーズソックスを履いた女子生徒。その写真は、写真集『NEW TEXT』の巻頭にも掲載されている。服装やメイクなど、その時々の流行りのファッションが見て取れるのも面白い。
「これは作品になるかもしれない」
そんな手応えを掴んだ小野は、卒業制作にまとめるだけでなく、その後も高校生たちを撮り続けることに決めた。
ただ、高校教諭の友人の紹介だけではすぐに限界が来た。そこで、被写体募集のフライヤーを作り、関西圏の繁華街の洋服店など高校生が立ち寄りそうな場所に置かせてもらった。
募集をすると「ちょこちょこ応募があった」
今でこそ小野は知られた存在だが、当時は写真集も出しておらず、世間的には無名と言っていい。高校生が見ず知らずの年上男性と1対1で向き合うなど、警戒されてもおかしくはなかった。
ところが意外にも「ちょこちょこ応募があった」のだという。さらに、カルチャー雑誌の読者交流ページでも被写体を募ると、小野のフィールドは関西圏を飛び出して、全国へと広がっていった。
「『カメラマンは自分で被写体を選ぶべきだ』と言う人もいるんですけど、募集の良いところは、自分の想像していない人が来てくれることです。予想を超えた出会いがあるから、結果的には募集という方法で良かったなと思っています」
基本的には応募があれば、日本全国どこへでも小野は撮影に行く。そして撮影は、その人にとって思い出のある場所やなじみのある場所で行う。
ちなみに、乃木坂46の『ハルジオンが咲く頃』でも同様の手法をとっている。
選抜メンバーそれぞれの縁のある場所で撮影した。中でも、この曲でセンターを務めた深川麻衣は、地元の静岡県まで撮りに行った。
被写体の高校生との事前のやりとりは、日程や場所の打ち合わせをメール等で行うだけで、撮影当日が初対面となる。小野にとっても当日までどんな人が来るかは分からず、もちろんドタキャンのリスクもはらんでいる。それにもかかわらず、この20年ですっぽかされたことは一度もないという。