写真家・小野啓。その名前を知らなくても、小野が撮った写真を目にしたことのある人は多いのではないだろうか。
小野のクライアントワークの代表例といえば、映画もヒットした朝井リョウの小説『桐島、部活やめるってよ』の装幀写真だろう。さらに、乃木坂46のシングル『ハルジオンが咲く頃』では、小野が撮影したメンバーの写真で5パターンのジャケットが作られ、地下鉄東京メトロ千代田線・乃木坂駅構内でのパネル展も話題となった。
雑誌や広告でも活躍する小野は、大学を卒業した後に専門学校で写真を学んだ。その当時から追い続けてきた被写体がある。それが高校生だ。
友達を撮っていて分からなくなった「写真」
「撮り始めた時は、撮り続けることができるのは、せいぜい4年ぐらいだろうなと思っていました」
今年で45歳になる小野はこう振り返るが、今年の夏で高校生を撮り始めて実に20年になる。
《写真を撮らせていただける「高校生」を募集しています。》
小野は自身のホームページで被写体を募っている。
デジタル全盛の時代にあっても、中判のフィルムカメラを使用して撮り続け、この20年間で実に700人以上もの高校生をフィルムに焼き付けた。
小野の同世代には、コンパクトフィルムカメラを使用して10代の頃から活躍したHIROMIXがおり、小野もまた、大学生の頃にはコンパクトカメラで友人らのスナップを撮っていたという。
「友達を撮っていて分からなくなったんですよ。写真というものが…。セッティング次第で、仲が良いようにも、そうでないようにも撮ることができる。自分で撮ってみて疑問が湧いてきて。勉強したいと思ったんです」
高校生が持つ「得体の知れないエネルギー」
専門学校へ進み、写真を本格的に始めた。当初は白黒のストリートスナップを撮っていたが、卒業を前に作風を変え、高校生を被写体に据えるようになった。
「人に興味があったんですよ。人ってやっぱり謎が多いじゃないですか。一番分からないものだからこそ、写真という手段を通して自分なりに知りたいなと思いました。
高校生は、その内側に得体の知れないエネルギーみたいなものがすごく凝縮されていると思うんです。実際に対峙した時にも、そういうものを感じ取りましたし、そういったものを逃さないように写真を撮りたいなと思いました。
それに、高校生はその時々の社会を表す存在のような気がしていた。彼らが何を考えているのか、単純に知りたいという気持ちもありました」