「う~ん、ちょっと、その(仏像の)件に関しては、答えられへんな。僕は代表ではあるけれども、僕が関与してへんことが結構多いから。そやし、Xさんに聞いて……」

 大岡寺の代表役員——仮にY氏としておこう——は、私の直撃にこう言葉を濁した。(全3回の2回目/#3へ続く

仏像が辿った“不可解な流れ”

 2016年、滋賀県甲賀市の古刹「大岡寺」から15年前に姿を消した国の重要文化財、「木造千手観音立像」と「木造阿弥陀如来立像」の2体の仏像が、複数のブローカーの手を経て、東京都品川区の安楽寺に渡っていたことが判明した。

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 その後、大津地裁で、この2体の仏像の所有権をめぐる両寺の争いが繰り広げられたが、大津地裁は18年、安楽寺に対し、仏像を大岡寺に戻すよう命じる判決を下した。

大岡寺と安楽寺の間で所有権が争われた「木造千手観音立像」(左)と「木造阿弥陀如来立像」(右) ©西岡研介

 ところが、その判決から約1年後の19年2月1日付で、安楽寺から文化庁に出された〈重要文化財の所有者の変更の届出〉によると、2体の仏像は同年〈1月15日〉付で、大岡寺から〈無償譲渡〉されたことになっている。

 15年もの間、行方不明だった仏像がようやく、元の寺に戻ってくる……。地元の新聞やテレビでも“ハッピーエンド”として大きく報じられたその裏で、わずか1年後、“盗まれた側”の大岡寺が、“盗んだ側”の安楽寺にタダで仏像を譲り渡していたのだ。

大岡寺側を取材すると……

 両寺の間で、一体何が起きていたのか――。取材を進めると、〈無償譲渡〉とされた届出とは異なり、実際には安楽寺から大岡寺に多額の“裏金”が渡っていた事実がみえてきた。大岡寺関係者が語る。

「今も大岡寺の代表役員に就いているYは、地元ではよく知られた、寺の“乗っ取りグループ”のメンバーで、安楽寺が大岡寺を相手取り、仏像の所有権の確認を求める裁判を起こした時にはすでに、大岡寺は、このグループに乗っ取られていた。

 黒幕は、京都の不動産業者のX。グループを親族や同級生、自らの会社の社員らで固めたXは、大岡寺に入り込み、それまで代表役員に就いていた住職を外して、従兄弟のYにすげかえた」。