「8500万なんて、知りませんね。安楽寺(と大岡寺)との間には、双方とも弁護士が入っていたので、弁護士同士で『和解』したんとちゃいますか。もしそんな金が(安楽寺から大岡寺)に入ったんなら、弁護士の(預かり金)口座に入ったんでしょう」
当初はこう主張していたX氏だが、質問を重ねると答えが変わっていった。
――8500万円が弁護士の口座に入ったんですか?
「そんな金額じゃなかったと思います。もっと低い(金額だった)と思います。もし(安楽寺が大岡寺に支払った金額が)『8500万円』だとしたら、途中で誰かが(金を)抜いてるんやろね」
金額については「もっと低い」としたものの、安楽寺から金銭を受け取ったことを認めたのだ。
“裏では有償譲渡”に法的な問題は?
表向きは無償譲渡としながら、実際は有償譲渡だった――。国の重要文化財をめぐるやりとりとして、法的な問題はないのか。自らも僧籍を持ち、宗教法人法など宗教関連の法律やトラブルに詳しい本間久雄弁護士はこう語る。
「文化財保護法は、原則として重文の有償譲渡を禁止し、まずは国に対し、売り渡しの申し出をしなければならず、文化庁長官から買い取らない旨の通知を受けてはじめて、有償譲渡が可能となると規定しています(46条)。このような規定に違反して有償譲渡がなされた場合、10万円以下の過料に処されます。
仮に、大岡寺から安楽寺への譲渡が、(無償譲渡と届け出ているにもかかわらず)有償譲渡であった場合、大岡寺は過料に処される可能性がありますが、文化財保護法の手続きに違反していたとしても、譲渡の効力に影響はないとされています」
ところで、#3で詳述するが、安楽寺はその後、熱海の私設美術館に「2億3000万円」で仏像2体を売却したとみられている。それと比較すると、大岡寺から安楽寺に引き渡された際の8500万円、あるいはX氏の主張通り「もっと低い」金額だとしたらなおさら、ここでは仏像2体が“相場”よりも安く取引されたということになる。
なぜ、大岡寺はそんな金額で仏像を譲り渡したのか。大岡寺関係者はこう語る。「当時、Xは、大岡寺とは別の(滋賀県内の)名刹の乗っ取りに絡んで、多額の債務を抱えていた。よって、手っ取り早く仏像をカネにしたかったんだろう」
一方、安楽寺にもまた、そうした“工作”を行ってまで、仏像を手に入れたかった理由があるはずだ。私は、大岡寺から仏像2体を手に入れ、さらにそれを千代田区の財団に売却した当時の安楽寺の住職を直撃した。