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銀行員が「祝日なので説明できません……」こんな働き方改革はおかしい

ビジネスの現場で仰天した哀しき日本人の“忖度”

2017/12/12
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 セミナーは個人投資家向けということもあり、お客さんが集まりやすい祭日に行われた。最近の不動産マーケットの好調ぶりを反映したのか、不動産に投資してみたいという個人投資家の方々で会場は大盛況である。

 私の講演のあとは、主催者である不動産会社から具体的な案件の説明が行われ、その後この投資案件にセットされた銀行ローンの仕組みについて解説がなされるのが大まかなセミナーの演目であった。

 ところが、会場に到着し、講演が始まる前に控室に入った私の前で不動産会社の担当者の顔色がさえない。担当者の口から出たのは次のようなセリフだった。

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「銀行から電話で祭日は働き方改革のために勤務できないと……」

「あの大変申し訳ないのですが、ちょっと演目が変更になりました」

 順番が変わるなど、内容が変更となることは稀にあるので、私は特に気にしないのだが、

「実は、銀行ローンの説明がなくなりました」

 とこぼす。

「え? 来場のお客様にとっては大事な話。どうしたのですか? 担当が急病ですか?」

 と聞く私に、担当者は驚くべき発言をしたのである。

「銀行から電話があり、今日は祭日で、働き方改革のために勤務してはいけないので説明ができないとおっしゃるのです」

当然のように外資系銀行の担当者は予定通り登壇

 空いた口がふさがらないとはこのこと。ちなみにこのローンを取り扱う外資系銀行の担当者は説明のために当然登壇するという。

 お客様のために「お役に立つ」。どの企業の経営者も口にするセリフだが、お客様が集まって説明を聞きにやってきているのに、働き方改革で説明しない、というのはいったいどんな「忖度」が働いているのだろう。

なんと会場には銀行担当者が私服姿で様子を探りに来ていた

 セミナーが終わって会場から出ようとした私は背中越しに呼び止められた。

「あの、○○銀行の者です。今日は説明できずにすみませんでした」

 事態を心配した銀行の担当者は私服姿で会場に様子を探りにやってきていたのだ。

「すみません」を言う相手は私ではなく、会場に集まったお客様のはずだ。何を間違えてしまっているのだろうか。恭しく名刺を差し出す担当者の姿に憐れみを覚えた祭日の午後であった。

©iStock.com
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