新世代の論客として注目されるルトガー・ブレグマンと、芸人のパックンが、世界の諸問題を語り合う異色対談。1回目は貧困問題に対する解決策「ベーシックインカム」という概念を紹介した。2回目は、日本でも今最も注目されている問題の一つ、「働き方」についてである。著書『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』で「週15時間労働」を提唱するブレグマン、果たして現代社会において実現可能なのだろうか。(1回目「“ベーシックインカム”は人を幸せにするか?」より続く

ケインズは「2030年に労働時間は週15時間になる」と予測した

パックン 産業革命時代、織物工は蒸気機関に仕事を奪われましたが、それ以上に新しい雇用が生まれました。今、AIとロボットが「中流」と呼ばれる人々の仕事を奪い、富の不均衡が極大化すると言われています。今回は、減った分だけの新しい雇用創出の保障はなく、今こそ、時間と富の再分配、労働時間短縮とベーシックインカムが必要である、というのがブレグマンさんのご意見です。日本でも働き方改革は注目されているテーマですが、ブレグマンさんの提唱する「週15時間労働」についてお話を伺っていきたいと思います。

パックン 今回もブレグマン氏と熱い議論を繰り広げた

ブレグマン イギリスの経済学者ケインズは1930年の講演で、「2030年には人々の労働時間は週15時間になる。21世紀最大の課題は余暇だ」と予測しました。ところが、産業革命以来続いていた労働時間の短縮は70年代にストップしました。まもなく2030年ですが、わたしたちは「暇を持て余す」どころか、過労、ストレスと不安定さに悩まされています。

パックン ヘンリー・フォード(フォード・モーター・カンパニーの創設者)が1920年代に世界で初めて週5日労働を実施したという例を挙げられていますね。労働時間の短縮が従業員の生産性を高めることをフォードはわかっていた、と。

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“効率”よりも“頑張っている”ことが重視される現代社会

パックン なぜ今、企業レベルで労働時間を制限するといった積極的な動きが多く見られないのでしょう。

ブレグマン 歴史を振り返ると理念や信念が、経済的な論理をはね除けた事例は珍しくありません。この場合、その信念とは「努力」です。効率性よりも頑張っているかどうかが高く評価される――これは日本において顕著な傾向ですよね。下手をすれば、2時間で出来る仕事を8時間かけた方がありがたがられる。

パックン 仰るように、日本は効率性に課題があると言えます。とにかく会議が長い!

対談当日のスタッフの人数の多さにも驚きをかくせないブレグマン氏。ここにも日本の効率性の問題を見つけたようだ。

ブレグマン かつて1年間オランダの新聞社で働いたことがありましたが、その時期が人生で最も労働時間が長く非効率な時期でした。午後4時を過ぎると、帰宅する午後7時まで、毎日ひたすらぼーっとしているか、ネットサーフィンをするか、周囲で帰宅した人がいるかを確認するくらいのことしかしていませんでした。

一同 笑

ブレグマン 現在、雇用主にとって、2人のパートタイム職員を雇うより、1人の社員に残業させる方が安くすみます。なぜなら健康保険料などの福利厚生費が、時間あたりではなく従業員1人当たりで支払われるからです。

 大きな問題は、「はたらく」ということに対する人々の概念が硬直していることです。経営者らが従業員にはボーナス等の「インセンティブ」(動機づけ・報酬)を与えるべきだ、と信じて疑わないことも問題でしょう。

 今日ではほぼ忘れ去られてしまっている19世紀の思想、アナーキズム(無政府主義)では人にはもともと想像力や創造意欲が備わっていて、「何もしない」ことを嫌う内発的モチベーションが存在する、という考え方があります。

 近年わかったのは「ぶら下げられた人参」の様な外発的モチベーション(やる気を起こさせるために物や金を提示する)と、内発的モチベーションが相殺し合うという事実です。内発的モチベーションの上に外発的モチベーションが「加わる」わけではないのです。しかも、ぶら下げられた人参が大きければ大きいほど、内発的モチベーションが下がっていく。私の会社のデ・コレスポンデント[広告を一切取らないオランダの先鋭的なウェブメディア]でもボーナスはありませんが、社内は意欲がある従業員で溢れていて生産性も高いです。これは気のせいではないのでしょう。