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「“わびさび”を感じる俳句のような印象」「効果的だった『桃太郎』の逸話」…ゼレンスキー大統領 国会スピーチ“3つの真意”とは?《平和構築の専門家が解説》

ウクライナ危機 #3

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ゼレンスキーの“戦略”で優れている点

 このように、ゼレンスキー大統領の目的は「日本を友好国にして外交財産を得ること」だと篠田氏は分析する。ただし、自国の都合の良いことだけを要求しても相手がいう事を聞いてくれる保証はない。ゼレンスキーの“戦略”で優れているのは日本の国益にもかなった要望を出したところにあるという。

「例えば“アジアのリーダー”としてロシアへの追加制裁をすることですが、アジア地域の各国の先頭で制裁の音頭を取ることは日本の国際社会での存在感を高めることに繋がります。同じ理屈で復興支援の場面でも、日本がアジア地域の支援を指揮して国際社会で存在感を示すことは日本の国益につながります。また、“国連改革”は常任理事国ではない日本では悲願でもありました。ゼレンスキーの国連安保理への批判は、国連における日本の活動を『アジアのリーダーとして』支援するという意味も含まれているんです」

ロシア軍の攻撃によって破壊された市街地 ©getty

 ゼレンスキー大統領のスピーチは日本政府にこのような3つの政策領域を示したと篠田氏は言う。確かに、日本の国益にもかなった政策だが、それを実行する日本政府のリスクはないのだろうか。

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「もちろんリスクが全くないとは言い切れません。ロシアとの関係は悪化しますから、核兵器を撃たれる可能性はゼロではない。しかし、そんなほとんどあり得ないようなリスクよりも、日本政府が何もしなかったことによる、国際社会から無能国家とみなされたり、同盟国・友好国からの信頼を失うリスクの方がはるかに高い。日本政府にはしっかりとした対応を期待したいですね」

これらの政策は“単なる駆け引き”ではない

 ゼレンスキー大統領のスピーチの直後、岸田首相はロシアへの追加制裁や人道支援を検討すると発表。国連安保理の在り方にも言及した。ただ、こういった政策が国際政治の単なる駆け引きと勘違いしてはいけないと篠田氏は警告する。

戦闘地域から避難する民間人 ©getty

「忘れてはいけないのが、彼は“本当の平和”を目指しているということです。ゼレンスキーが提示した3つの政策は両国の国益にかなっていますが、どれも“本当の平和”を実現するための政策です。『プーチンと安倍晋三元首相の蜜月を批判するのではないか』という憶測記事もありましたが、それはゼレンスキーの目的には一切合致しない。彼にとっては、重箱の隅をつつくような批評をしても何のメリットもない。優れた戦略家の第一の資質は、自分の行動の目的を知っていることです。

『感動的で効果的なスピーチだった』で終わってもいいでしょう。ただ、彼の目的を理解したうえで、同じ“本当の平和”を愛する人間として我々国民も政府の後押しをするために声を上げ続けることが大切です」

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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