「彼は会社の社長をしていたこともあり、優れたコンサルタントのような問題解決能力を持っています。今、彼はウクライナブランドそのものであり、ブランドをマネジメントする優れた戦略家です。
各国の議会でのスピーチでそれぞれ内容を変えていることからも明らかなように、自分の目的に合わせてスピーチの内容からトーンまで変えてしまう。今回のスピーチをただの感動で終わらせてはいけません。その裏に隠されたゼレンスキーの真意を読み解くことが重要なのです――」
こう語るのは、国際政治学者の篠田英朗氏だ。篠田氏は学生時代より難民救援活動に従事し、カンボジアでのPKO活動をはじめとして、アフガニスタンやイラクなど数々の平和構築に携わってきた“平和構築の権威”である。今回のゼレンスキー大統領のスピーチに隠された「真意」を篠田氏に分析してもらった。
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垣間見えた「日本に詳しい人と協議した努力」
3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会でスピーチを行った。
わずか12分ほどの短い演説は、日本へ支援の感謝を述べ、ロシアへの追加制裁を求める内容だった。英国議会でのシェイクスピアの引用や、米国議会での911や真珠湾攻撃への言及などと比べると感情をあおるような内容はなく、他国と比較すれば“あっさりした”演説だったとも言える。しかし、それこそがゼレンスキーの狙いなのだと篠田氏は語る。
「ゼレンスキー大統領のスピーチは無駄をそぎ落とした“わびさび”を感じさせる俳句のような印象でした。例えば『福島原発に残った英雄の方々』『広島・長崎の原爆の復興を成し遂げた方々』のように、具体的な人たちに言及して熱く語っても、日本人は引いてしまうことが分かっていたのでしょう。
チャーチルやシェイクスピアの引用でストレートに届けるのは、日本では暑苦しすぎて共感を得られないと考えたのだと思います。自然に“におわせる”ことで日本人が共感を覚えやすくした。SNSの反応を見る限りこれは成功したと言えるでしょう。
確かに欧米での演説のような熱さ・熱狂がなかったのは事実で、この演説が英米の議会向けだったならば、おとなしすぎと言えるでしょう。どうすれば日本という国に伝わるかを必死に考え抜いた結果の構成だったという印象です。日本に詳しい人と内容について協議した努力が垣間見えました。ゼレンスキー大統領は、すべての国に向けての内容のみならず演説のトーンまで変えていました。ロジカルかつ技巧にも優れた、計算しつくされた演説という感じがします」