ウクライナが求める日本と同じ“本当の平和”とは?
確かに、SNSには演説にちりばめられた「原発」「サリン」「津波」「復興」といったキーワードに、「東日本大震災や地下鉄サリン事件などを想起させる」という声が多く見られる。いたるところに散りばめられたキーワードの中でスピーチの要となっているのは“本当の平和”だという。
「彼は“本当の反戦”“本当の平和”という言葉を演説の冒頭で使いました。これは、自分たちウクライナは『日本が太平洋戦争後に苦労して勝ち取った平和と同じものを目指している』と言いたいのでしょう。安易な降伏で得られる偽の平和ではなく、苦しい戦いと復興の後の『あなたたちも愛している“本当の平和”を目指しているんだ』ということを強調していました」
日本人の特性をよく理解した“戦略”だと篠田氏は称賛する一方で、演説の後半を聞いているときには、あと一歩強く日本人の心を惹きつけるエピソードが必要だと感じていたという。
『桃太郎』エピソードの効果は…?
「ところが最後に『自身の妻が、目の不自由な子どもたちのために日本の昔話のオーディオブックを作るプロジェクトに参加したことがある』というエピソードが出て来ました。このエピソードによって、日本の国会のみならずお茶の間にも連続性を意識させることに成功したように思います。国会という公的な場だけでなく、日本の一般聴衆とウクライナ国民の心の距離が近くなりました」
篠田氏は、ゼレンスキー大統領が演説の冒頭で「8000km以上離れている距離を、平和を信じる気持ちの共有で越える」という大きなテーマ設定をし、最後に「親近感の湧く具体的な平和な日常の共有」で結んだのは「さすがだった」と分析する。
「あの昔話はどうやら『桃太郎』のことのようですが、『桃太郎』を読み聞かせしたり、されたりという経験は多くの日本人が持っていますね。人は同じ経験を共有することで、相手に親近感が持てます。『日本の誰もが経験したことのある、昔話の読み聞かせをした妻の夫が大統領である私なのだ。私も皆さんも一緒なのだ』ということをそれとなく伝えたのです。
おそらく、この『桃太郎』が、英国議会の『シェイクスピア』であり米国議会の『911』相当するものだったのでしょう。『ウクライナに武器を送れ』『憲法9条を改憲しろ』『北方領土を思い出せ』といった過激な言葉を言ってもここでは何の意味もない。彼は日本の昼のワイドショーをにぎやかにすることを目的にして演説したのではありませんから」