3月16日、プーチン大統領はテレビ放映された演説でこう発言した。
「ロシアの人々は、クズどもと裏切り者を愛国者と常に見分けることができる」
反戦運動が行われるロシアでのいかにも独裁者らしい強権的な発言。世界からそう批判されたが、この発言の裏には停戦へと傾いているプーチンの“本音”が隠されているのかもしれない――。(全2回の1回目/続きを読む)
停戦させるには、プーチンの不安を煽ること
「独裁者にとって一番恐ろしいのは自分の権力基盤を失う事です。だからこそ、国民の声を完全に無視できません。世論を無視していては暗殺やクーデターのリスクが増しますから。それはプーチンも同じはずです。
世論を鑑みて戦争を続けるリスクが高いと判断すれば、彼は停戦へと動き出すでしょう。そのためにはプーチンの不安を煽ること。これが今、各国が全力を挙げて取り組んでいることなんです。現状それは功を奏していて、最近のプーチンの言動にもその兆候は表れています」
こう語るのは国連PKO活動などで多くの紛争解決を手掛けてきた篠田英朗氏である。篠田氏は学生時代より難民救援活動に従事し、カンボジアでのPKO活動をはじめとして、アフガニスタンやイラクなど数々の平和構築に携わってきた“平和構築の権威”だ。戦争の最前線を知る篠田氏にどうすればこの戦争が終わるのか、停戦交渉の場で何が話されているのかを聞いた。
かつてない規模の経済制裁が行われている
2月24日にウクライナへの侵攻を開始したロシアに対し、アメリカ、EU諸国に加え、オーストラリアや日本といった多くの国が経済制裁を行っている。これは国際平和を乱したロシアへの懲罰というよりも、戦争を終結させるための「プーチンを追い詰める戦略」であると篠田氏は解説する。
「いま行われているのは、かなり思い切ったかつてない規模の経済制裁です。もちろん、世界第2位の経済大国である中国が参加していない制裁に意味があるのか、といった問題点も指摘される通り完璧ではありません。それでも有力国家のほとんどが制裁に参加している事実はロシアにとっては十分な脅威となっているでしょう。
しかも各国が次々と追加の経済制裁を行っている。二の矢、三の矢を繰り出してプーチンを追いつめること、そして終戦へのメリットを感じさせること、これが今回の制裁の狙いなんです」