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立ちはだかる「中立とはなんだ」という問い

 3本柱のうち、どこを譲歩してどこを譲らないのか。両国はまさにこの交渉を緊迫のなかで行っている。

「ゼレンスキー大統領に代わる傀儡政権の樹立は非現実的であり、ロシアの譲歩しかありません。完全な非武装化は、ウクライナが受け入れられる状況ではありません。しかし3月15日、ゼレンスキー大統領は「NATO加盟は不可能だと認識した」と発言している。これは『中立』についてはウクライナが譲歩する可能性が高いということでしょう

 しかしここである問題が立ちはだかります。『中立って何だ』という議論です。NATOに加入しないと約束するとして、それはここ数年のことなのか、それとも永続的に加入しないと約束できるのか。どちらにせよNATOに加入しない事が決まってしまった場合、ウクライナはNATOの代わりに自国の安全と独立を保障する第三者をどう立てるのか。私はOSCEのような地域的枠組みが焦点になると思うのですが、双方納得するまで議論が続いていくでしょう」

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ロシア国内ではウクライナ侵攻に反対する運動への弾圧が起こっている ©️getty

 そして、中立化とあわせて交渉が難航するとみられるのが、『ウクライナの非武装化』である。報復を恐れるロシアにとっても譲れない要素だが、ウクライナからすれば、今回のようにいつ何時ロシアが侵攻してくるかわからない状況で非武装化することはあまりに無茶だ。

「落としどころとしては中立化とあわせた“軽武装化”といったところでしょうか。NATOと連携しない、特定のエリアに軍を配備しないなど、武装に制限をつける可能性はありえます。ロシアは間違いなく東部地域に軍を配備しないことは要求してくるでしょう。1本目の柱である『中立』を保障するためにNATOとの合同軍事演習を止めるという選択肢もありえますね」

「苦痛に満ちたディール」がないと戦争は終わらない

 こういった交渉を続ける中で、現実に可能な妥協の範囲は話し合われる。ただし、たとえ停戦協定が合意に至ったとしても、その内容はロシアにとってもウクライナにとっても決して満足のいくものではないだろう。 

「ウクライナは結局、失うものしかありません。そしてロシアも『思い描いていた成果はこうじゃなかった』と落胆するほどには譲歩しなければならないでしょう。両者が唇を噛みしめながら帰っていく停戦交渉になる。ただ、苦痛に満ちたディールが無いと戦争は終わらないのも現実でしょう」

プーチン大統領への抗議デモを行うウクライナ国民 ©️getty

 両国の代表団は3回目の停戦交渉で前向きな進展があったと発表している。ただし、明確な停戦への道筋は示されていない。いったいいつまでこの戦争は続くのだろうか。

「交渉は現実の進展の行方を見定めながら進められます。戦争の行方次第では交渉は早期にまとまりますが、逆のシナリオもありうる。この戦争が2~3年続く可能性は十分ありますし、シリアのように10年続くことだってあり得るでしょう。いつまで戦争が続くのかは、『プーチン/ロシア国民がどこまで望むか』『ゼレンスキー/ウクライナ国民がどこまで耐えられるか』という極めて属人的な理由によって決まってくる。確定的な予想はできません」

 しかし“心のプーチン”が囁くまで、戦死者は増え続ける。この戦争で世界が失うものはあまりに大きい。