「ロシアが干上がるのを待つ」ウクライナの戦略
ウクライナ軍の戦略も同じく、ロシア軍に勝利するためというよりも「干上がるのを待つ」という目的があるようだ。その象徴的な戦略が2つある。
「一つはウクライナ軍がロシアの補給線を攻撃していることです。ドローンが撮影した映像で、兵士、戦車、補給トラックが並んでいるロシアの軍列に補給トラックを狙って爆撃しているものがありました。今、ロシア軍はキエフ総攻撃の手前で補給路の弱さを理由に足踏みを余儀なくされています。補給線を絶つことで巨大なロシア軍をジワジワと弱体化させているのです」
もう一つ印象的なのは「ウクライナが優秀なスナイパーを大量に雇っていること」だという。ロシアの高級将校が次々と戦死していると報じられているが、それはスナイパーの活躍に象徴されると推測する。
「部隊の指揮官がいなくなれば、意思決定に乱れが生じます。新しくやってきた指揮官が『不安だからもう一回確認させて』と一度決定したことが白紙に戻ったり、『以前の指揮官は違った方針だった』と下士官が混乱したりもするでしょう。その結果、侵攻のスピードは遅くなります。ゼレンスキー大統領は『5~6月ぐらいに停戦合意ができるだろう』と発言しているのは、こういった作戦が功を奏していることを踏まえてのことでしょう」
戦闘を有利に進めるために、ロシア軍にはクレムリンから精鋭部隊を派遣するという手段もある。しかし篠田氏の見立てでは「クーデターや突発的な攻撃を怖れ、プーチンが手元から離すことはない」。
今すぐ戦争をやめることは「プーチンの死」を意味する
各国が経済制裁を行い、ウクライナ軍の作戦も功を奏している。それならなぜ、プーチンは今もなお戦争を続けているのか。
「今すぐ戦争をやめることは、彼の死を意味するからです。プーチンが停戦条件に挙げているのは『ウクライナの中立』『非武装化』『ゼレンスキー大統領の辞任』の三本柱です。彼はこれを実現するために膨大なコストをかけて戦争をしている。それが、何も得るものがなく終戦してしまえば国民からの支持を失ってしまいます。すなわち、多くの独裁者が最も恐れる権力基盤の崩壊に直結するんです」
それでなくても、経済へのダメージや国民の不満が高まれば、「いずれ“心のプーチン”が音を上げる瞬間が訪れる」という。
「ある日、心のプーチンが夜中にプーチン自身に対して『危険分子が結託して一斉蜂起するかもしれない』『このまま何も獲得できないまま1年2年過ぎて、戦死者が数万人を超えてもまだ続けるのか。3本柱にこだわらないで今のうちに得るものだけ得て終わるのが賢くない?』と囁いてくるでしょう。そうするとプーチン大統領は『大統領選に勝てる段階で、少しだけ譲歩してやろうかな』という気持ちになる時がくるはずです。
広大な国土を持つロシアはすみずみまで政権による監視の目が行き届かない。シベリアや中央アジアで反政府勢力が結託するという“悪夢”にうなされるくらいなら、と天秤が揺れる日は必ずきます」