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監督辞任を意気に感じなければ“プロ”じゃない 井川慶が語るタイガースと開幕投手

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/03/25

“文春野球”読者のみなさん、はじめまして! 今シーズン、阪神タイガースの一員として戦わせて頂きます井川慶と申します。10年以上前になりますが、阪神タイガースで投手をやっていました。この文春野球では、僕なりに感じた野球界のことや、僕自身の現役時代のことを伝えていければと思っています。

 さて、プロ野球もついに開幕を迎えます。プロ野球選手にとってのシーズン開幕は、どれだけキャリアを積んでも、どんなにキャンプから調子が良くても不安やプレッシャーを感じるものです。

 僕自身も2002年からメジャーに移籍する前年の2006年まで、5年連続で開幕投手を務めましたが、毎年のように緊張していたのを今でも憶えています。

 ただ、開幕戦での一番の思い出は……というと、実は初めて開幕投手を任された2002年ではなく、前年の2001年なんです。

現役時代の筆者・井川慶 ©文藝春秋

プロでの自信と手応えをつかんだ2001年開幕戦

 あの年、僕は野村克也監督から初めて開幕ローテーションに抜擢されて、開幕4戦目の広島戦で先発することが決まっていました。ただ、登板間隔が少し空くから「もしかしたら調整で1イニング投げるかも」と言われて開幕戦のベンチにも入っていたんです。

 試合自体は序盤からジャイアンツ打線に投手陣がつかまり、ボロ負けだったので僕が投げたことを憶えている方はあまりいないかもしれません……(苦笑)。それでも大量ビハインドの場面、リリーフで1イニングだけ投げてパーフェクトに抑えることができたんです。

 まだプロ4年目で、実績なんて全くない状況だったので、シーズン初先発の前、しかも開幕戦に投げることができて自分の思うようなボールを投げられたことは、すごく自信になりました。結果的にこの年、僕は初めて規定投球回をクリアして9勝を挙げるんですけど、「開幕戦の1イニング」で手応えと自信をつかんだことも大きかったと思います。

Mr.マリックの開幕セレモニーを、ただ一人見逃したあの日…

 僕はタイガースの開幕投手を5度務めましたが、実はひとつ、自分の中で決めごとを作っていました。それは、「開幕戦ではなく、オープン戦のラスト登板に照準を合わせる」こと。

 プロ野球でも「開幕に照準を合わせる」選手はたくさんいますが、僕の場合は自信を持った状態で開幕を迎えたかったので、その1週間前、オープン戦のラスト登板を開幕戦だと想定して、身体もメンタルもバッチリ仕上げるように心がけていました。わざと自分を緊張させて、「この試合が開幕だ」と自分を騙すくらいまで追い込む。そこで良いピッチングをすることで、「よし、今年もいけるぞ!」という感覚をつかむんです。一度自分を追い込むことで、開幕戦を「2戦目」くらいのイメージで迎えることができて、独特の緊張感も少しだけ和らげることができます。

 そうすれば、開幕投手という大役を任されても、いつも通りのピッチングができる。選手のタイプにもよりますが、この調整法は個人的にはオススメです(笑)。

 あと、これはちょっとしたウラ話になりますけど、開幕投手って試合前のセレモニーがほとんど見られないんです。たしか2002年だったと思うんですけど、試合前にMr.マリックさんのマジックショーがあったんです。メチャクチャ見たかったんですけど、東京ドームの試合だったのでブルペンが室内にあって、チームの中で僕だけ見ることができなかったんですね。リリーフの投手もみんなベンチに出てショーを楽しむ中、僕だけひとり、「いいなぁ、みんな……」と思いながら登板前の最終調整をしていました(笑)。いや、もちろん試合には“全集中”していましたよ! それが、仕事ですから。