ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌の一連の報道を受けて、ソーシャルメディア上で#MeTooのタグのもと、数多くの人々が性的被害の体験を打ち明けた。辱めを受け、そんな自分を責め、職場や学校や家庭を恐れ、トラウマに苦しんできた女性と男性の叫びが世界中にこだました。
1年近い調査の中で被害者に辛抱強く寄り添ってその声をすくいあげ、権力者の脅しと圧力に屈することなくワインスタイン報道を世に出したニューヨーク・タイムズ紙の2人の記者とローナン・ファローは2018年のピューリッツア賞を受賞する。2017年末にタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーとして表紙を飾ったのは、勇気を持って声をあげた女性たちだった。
天才セレブ二世ローナン・ファロー
著者のローナン・ファローは女優ミア・ファローを母に持つセレブリティ二世である。父親は映画監督のウディ・アレン。15歳で大学を卒業し、21歳で名門イエール大学の法科大学院を卒業。ローズ奨学生に選ばれてオックスフォード大学でも学んだ。
10代でユニセフの広報を担当し、その後国務省に勤務してアフガニスタンとパキスタンを担当する。国務省を辞めたあとは外交政策の本を執筆するかたわら、ケーブルテレビのMSNBCで自分の番組を持ち、その後全米ネットワーク局NBCの調査報道記者となった。
NBCの朝の超人気番組である『トゥデイ』の報道コーナーを担当するようになって割り当てられたいくつかのネタのうちのひとつを調査するうち、ハリウッドの大物プロデューサーが長年にわたって常習的に女性に性的暴行を加え、組織ぐるみでそのことを隠蔽してきたことを突き止めた。
ローナン・ファローはそれまで親の七光りを避けて生きてきた。弁護士の資格を取り、国家に仕え、調査報道の仕事にやりがいを見出し、将来はニュースキャスターとしての道を目指していた。義姉のディランが父親のウディ・アレンを性的虐待で訴えたことについては、口を閉ざしてきた。そうして過去を封印してきたファローが皮肉にも、権力者による性的虐待を世間に問うことになったのである。
キャッチ・アンド・キルとは
長年にわたって女性たちを性的に搾取し続けてきたのはハーヴェイ・ワインスタインだけではない。不正を世に出すべき報道機関でも、政界でも、学術界でも、金と力で告発者の口を塞いできた。権力者を守りたい組織は示談金と引き換えに被害者に秘密保持契約を結ばせ、口を開けば損害賠償を求めると脅かしていた。
告発者バッシングに加担したメディアも少なくない。ナショナル・エンクワイヤラー紙はハーヴェイ・ワインスタインと裏で手を結び、被害女性のありもしないスキャンダルをこれでもかと書き立てた。