山岳信仰の礼拝所がベトナム寺に
だが、この本庄市の御嶽教の教会は、どうやら15~20年くらい前に教会長(建物の雰囲気からは「住職」と言いたくなる)が亡くなり、「空き寺」になっていたところ、豪腕尼僧のタム・チーさんが音頭を取って買い取り、ベトナム寺に改造したらしい。
事実、境内ではベトナムから寄贈された鐘やベトナム語のポスターなどに混じって、平成時代前半までに御嶽教の信者が寄贈した仏像や庭石も多く残る。本堂の巨大な太鼓には御嶽教マークが残り、磬子(読経のときに鳴らす鐘のような仏具)には御嶽教信者らしき日本人の奉納者名が書かれたまま……。つまり、日本社会の宗教施設だった時代の仏具がそのまま流用されている。
庫裏には御嶽教の神棚がそのまま残っている。さらに驚かされたのは、日本国内で亡くなったベトナム人たちの真新しい位牌(もちろんベトナム語表記)に混じって、御嶽教時代の信者らしき「〇〇〇〇信女霊位 平成十五年九月十六日」などと書かれた日本人の位牌が、いくつか残置されていたことだ。
もちろん、「住職」がいなかった時代と比べれば、朝夕に尼僧たちから御嶽教時代と同じく般若心経(ただしベトナム語)を上げてもらえるのは幸せなことかもしれないのだが、位牌の主である日本人たちは、死後の思わぬ運命の変転に驚いていそうだ。遺族は事情を知っているのか、いろいろ気になるところである。
近年、後継者不足によって潰れた古い蕎麦屋や寿司屋の建物に外国人の店舗が居抜きで入り、店内のインテリアにほとんど手を加えず什器もそのまま使用する形で、障子や座敷があるネパールカレー屋や中華料理店を「気合い」で経営しているような例が多く見られるようになった。
大恩寺はそれらの“仏教版”だといえそうだ。今後、地方において後継者不足から無住状態になった神社やお寺が、ベトナム寺や中国寺に改造されて第二の生命を吹き込まれる事例が増えていくかもしれない。