選手に監督を任せ、ファン投票で打順を決めて、外野からの返球はランナーがいなくても全力……そういえば、試合中にインスタliveをするとも言っていた。
「BIGBOSS」は“常識外れ”だ。
びっくりするような戦略を実行し、それでいて貯金2の5位でオープン戦を終えた。おかげでここ数年、観客動員が低迷していた北海道日本ハムファイターズの注目度は格段に上がった。3月29日の本拠地開幕戦のチケットは完売だそうだ。
もうひとり、注目したい「常識外れ」な指導者がいる。
埼玉西武ライオンズの打撃コーチ・平石洋介。
野球ファンならば、その経歴を知る人は多いはずだ。現役引退後、生え抜きとして東北楽天ゴールデンイーグルスでコーチ人生をスタートさせ、2019年には38歳の若さで監督に抜擢された。その年、クライマックスシリーズ進出を果たすも解任。すると、その手腕に目を付けた福岡ソフトバンクホークスがコーチとして招聘する。侍ジャパンに選出されるなど球界を代表する選手となった栗原陵矢らのブレイクのきっかけを作り、2020年の日本一にも貢献した。
端正なマスクを持ち合わせ、選手との距離が近い「兄貴的存在」。PL学園野球部出身で、松坂世代。野球界の“ど真ん中”感がある。
でも、「常識外れ」なのだ。
「バットを最短距離で出せ」は正しい?
初めてそれを感じたのは、バッティングについて話をしていたときだった。
「最短距離でバットを出せってよく言うけど、本当にバットを最短で出したらボールは遠くに飛ばないですよ」
そう言って、自身も憧れを抱く王貞治さんの打ち方を研究したときの話をしてくれた。
「王(貞治)さんは確かに、最短でバットを出す練習をされていました。映像でも見たことがありますけど、日本刀を上から下に振り下ろして、最短でスパッと切る。でも、実際の王さんのホームランを見たら、下からすくい上げていることが多い」
探してみると、そんな例はいくらでもあったと平石コーチは言う。
「ボールを捕球するときは手のひらでしっかり取る」と言われてきたけど「グローブをはめて手のひらで取ったらとんでもないところ(土手)で取らなきゃいけなくなる」。「内野ゴロはグローブを立てる」というセオリーも、手首をかなり曲げないとグローブは立たない。「すると、ボールを握ってスローイングするまでにロスが出る」……。
長年、指導における「常識」と言われていたこと。ひとつひとつをよく紐解いていくと現実に起きているプレーとの間に「ズレ」がある……。
「もちろん最短でバットを出した方がいいシーンはあります。でも、ヘッドが重いというバットの形状を考えれば、できるだけ遠心力を使った方が強い打球を打てるわけですよね。そのとき、最短でバットを出そうとするとそれができない打ち方になってしまう。
グローブをしてボールを取る場所は親指と人差し指の間あたりだし、例えば楽天でチームをともにした守備の名手・藤田一也は捕球のコツを『グローブを寝かせること』と言った」