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現役時代、指導者の言うことを聞きすぎた

「まず常識を疑わないといけない」

 そう感じながら取り組んできた11年目の指導者生活。その思いは年々と強くなり、あまりにも膨大なズレに、「選手たちにどんな言葉を掛けていいのか迷いますよ」と、漏らしたこともある。

「今まで、自分たちが言われていた、当たり前だと思っていたことが、全然間違っていることもあった。それだけなら、間違っていることを正せばいいと思われるかもしれないけど、そんな簡単じゃない。極端な話、間違っているようでも“ある選手”には、その言い方、やり方が良かった、なんてこともあるんです。

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 指導をすればするほど、どうやって言うのがその選手のためになるのか……そもそも、例えばバッティングは7割失敗して一流と言われるわけですから、そこに正解なんてないんですよね」

 言わば「正解のない指導論」。これは平石コーチが「シンクロナス」で毎月配信しているコンテンツのタイトルでもある。本稿のエッセンスの多くは、その動画コンテンツやlive配信、事前の打ち合わせで話してくれたものだ。

 平石コーチには現役時代に、指導者の言うことを聞きすぎた、という思いがある。言われたとおりにやっているのに、結果が出ない。そもそも、その指導に対して納得していたのか、と自問すると、必ずしもそうではなかった。

「気づくのが遅かったですね。だから、選手が納得してやれるか、をまず考えるようになりました。外から見たら正しいと思われることでも、(コーチとして)これが必要だと思うことでも、その選手が腹落ちしないのであれば無理強いしてはいけないな、と思っています」

 平石コーチは「選手と近い指導者」という言われ方を嫌うが、選手の心理を中心に考えて接するからこそ、そう見えるのだろうし、「常識外れ」な指導だって選択肢に入れられる。

1番・鈴木将平の成功体験

 そんな「正解のない指導論」は、西武ライオンズに籍を移してからも発揮されている。

 例えば、オープン戦でブレイクした鈴木将平。平石コーチが初めて鈴木を見たのは、楽天の二軍監督時代のフレッシュオールスター。そのプレーに目を奪われたと言う。

 一緒に戦うことになり、久しぶりに目にしたのは昨年のキャンプでのこと。平石コーチは鈴木について「インサイドアウトを意識しすぎていないだろうか」と感じ、本人に尋ねると鈴木は首肯した。

 かねてより「バットを内から外に出すインサイドアウトが正しいスイング」に対して、疑問を抱いていた平石は「もしかしたら、その捉え方次第で改善できるかもしれない」と直感する。

 事実として、「インサイドアウト」のスイングでは対応できないシーンを何度も目にしてきている。

 インサイドアウトがなぜ必要なのか、どうすればそれが実現できるのか、その上で「実際のスイング」はどうなるのか。それらを踏まえて、どう鈴木に伝えるべきなのか……。

 小さな変化を積み重ね、鈴木の思いを聞きながら平石は、常識に捉われない接し方を心がける。結果として、鈴木は開幕一軍、スタメンを手繰り寄せた。

「鈴木にしても今、納得したからやろうと思ってくれたんだと思います。そこに成功体験があるからこそ、続けていけますしね」

 あくまでも選手が主役。常識だって気にしない。そのスタンスに変わりはない。

 BIGBOSSほど注目されない「常識外れ」だが、新しい西武ライオンズのキーマンになる気がしている。

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