トラッキーから勢いが消えた
試合前に投げるボールに勢いが全然無い。スタンドの中段どころか前の方に届くのがやっとだ。そしてバック転をすることもなければフェンスに足を引っ掛けて宙吊りになることもない。魂が抜けたようだった。
私は「おーいトラッキー! ここまで投げてみぃ〜!」と叫んだが、トラッキーは力なく歩くばかりだった。
数日後「中の人」が交代させられたらしいという噂を聞いた。どうもトラッキーが叩かれたり技をかけられたりするのがかわいそうだという抗議があったらしい。
その抗議を収めるために球団は「特効薬」を使ってしまった。元のトラッキーの「魂」は抜けてしまい、別の「魂」が入った。しかし違和感が上回ったせいか「特効薬」を使い直した。また別の「魂」が入ったことでアクロバティックな動きが戻った。騒動は落ち着いた。ただバック転ができてもあのトラッキーとは全く違う。別のものに変わってしまった。そんな寂しさを感じたのを覚えている。
マスコットの「魂」はそのままにしてほしい
今のマスコットはただ飛んだり跳ねたりするだけではない。マスコットとして意思表示をする。つば九郎やドアラ、マーくんなどは筆談でコミュニケーションをとる。ブログを書いたりする者もいる。マスコットが昔のことを語ったり、ネタにすることだってある。ファンはそれを見て「思い出」を残す。
そうなるとやはり違う動きを見てしまうと違和感が発生してしまう。
そういえば八カセのコラムを書いていた時に思った。彼はいわゆるサブマスコットだったが自分で喋ったし、普通にファンと会話をしていた。そんな彼が「特効薬」を使って戻ってくることになったら。「あの時中郷の話、ほんまに面白かったなぁ!」とか気軽に話せないだろう。「いや、ごめん、覚えてへんねん」とか言われたら、それこそあの楽しかったひと時が全て否定されるような気がしてしまう。戻ってきてほしいがその時は「魂」はそのままでいてほしい。
マスコットはやはりチームの顔であり、ずっと同じパフォーマンスができるように宿命づけられてしまっている存在だ。B・Bが下した決断はおそらく今後もB・BがB・Bとして、いつまでも思い出に残り、かつ長くファンと関わるための究極の選択だったんだなと思っている。
そういえば。抜けてしまったトラッキーの「魂」は横浜や仙台に流れ着いたと聞いた。姿が違っても動きを見ると「あ、トラッキーだ」と感じてしまう。そしてその「魂」は今年の11月、横浜スタジアムに戻ってきたようだ。佐伯にキックを見舞ったり、逆にジャイアントスイングをかけられたり。流石にあの頃より動きは鈍っていたが高くジャンプしてお腹から落ちたり(いわゆる流星ジャンプ)。その光景を見て不覚にも泣いてしまった。
「魂」はまだ幼かった私の記憶にしっかり記録をつけてくれていた。その動きがあの頃を思い出させてくれる。
あ、もう1回言っとこう。八カセ、戻ってこーい!
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