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従来のバラエティ番組を解体して再構築…確実に進む「沈黙の下克上」

 芸人・有吉弘行は何故、再ブレークしたのか?

 ここからは私見ではあるが─。

 90年代のリアリティ・ショーの全盛期を経て、昨今のバラエティは力を合わせて、みんなで「組み立てるもの」という前提がある。

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 その対極は、番組構成を乱暴に重機や爆薬で更地化してしまうような「破壊ショー」。これは、かつてのビートたけしであり、とんねるずであり、爆笑問題の太田光などは大御所になった今もやっている。

 この手法は、コメディアン=お約束破りの壊し屋、インパクトを持って世に出る、文字通りブレークするための出現の方法の一つだ。

 しかし、有吉くんの場合、この「組み立て工」にも「壊し屋」にも類別されない。むしろ、似て非なる「解体業者」であり、「リサイクル業者」に見える。

 番組を不可逆的に破壊するのではなく、ネジを一つ一つ外して解体しつつ、しれっと、自分流にリフォームしてしまう。番組を初期化してしまうのではなく、ウィルスコードを仕掛けてプログラムを改変してしまう知能犯だ。

 つまり、壊し方が可逆的なのだ。番組そのものを台枠から破壊しないから、クビにはならない。むしろ、また番組には呼ばれる。

 ただし、その上で現在の協調性・同調性を求められる雛壇芸人の集団芸に加わりつつも、その生温いポジションに安住している芸人や芸能人には、たっぷり皮肉の利いた毒を盛り、レッテルを貼って世間の晒し者にする。

 従来のバラエティ番組を彼なりに、どうにか解体しようとしている。その手法は、ビートたけしや松本人志のような芸術家肌には見えない。むしろ、地味ながら卓越した職人芸そのものだ。

 また、特筆すべきは、この数年で、いつの間にか雛壇芸人やレポーターではなく、有吉くん司会の冠番組も増え続け、それは深夜番組からゴールデンタイムへと移行し始めている。

 いつか解体されるBIG3やダウンタウンの神殿の脇に、次の20年を見据えて、式年遷宮の如く、すでに有吉神宮は再建立が始まっている。

 しかし、世の中は、そのことを誰も意識していない。

 気づけば古き笑いの遺構は浜辺の砂に埋れ、その時テレビという小宇宙は“猿の惑星”へと姿を変えていることだろう。

©iStock.com

「ブレークとはバカに見つかること」との名台詞もあったが、世の中に気付かれぬまま、業界のヒエラルキーからも離れ、誰にひれ伏すことも無く、有吉くんのお笑い界のサイレント・レボリューション、「沈黙の下克上」は確実に進んでいる。

 彼が飽くことなく繰り返すテレビ番組に於ける創造的破壊は、バラエティが一時の心地良い箱庭だけではないことを教えている。

 それは、見上げれば白い雲どころか、激しい風雪に晒される未来を知るからこその行為に思える。常態などあり得ない、過酷な世界の存在を知っている哀しきニヒリストの所業なのだろう。

【前編を読む】「アイツ、これから化けるよ!」テレビ界から遠ざかっていた有吉弘行が周囲を感嘆させた“腹黒い笑い”とは

藝人春秋 (文春文庫)

水道橋博士

文藝春秋

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