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先生と若者の懸け橋に

 心の中でずっと考えていることがある。それは寂聴先生の魅力をどう人に伝えられるかということだ。

 寂庵に来るまで、私は先生の名前を聞いたことがある程度で、尼さんだということしか知らなかった。そんな私が今や先生の秘書を務めていて、本まで出していることが不思議だ。

 先生と共にした8年は家族や友人、恋人の誰よりも一緒に過ごす時間が長かったと思う。先生の強さ、優しさ、愛、そして思いきり生きている姿。「先生のことをもっと若い人に伝えたい」「私が先生と若い人との懸け橋になりたい」と思うようになった。

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提供 瀬尾まなほ

 そんなとき、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で影響力のある若いインフルエンサーたちと先生が、人生の様々な問題について討論するイベントを開くことになった。

 当日寂庵には10~20代の男女8人のインフルエンサーらが集まり、出された質問に答えながら、意見を出し合った。皆それぞれしっかり自分の意見を持って話す姿を見て先生は「若い命を頂いて100歳まで生きられそう。未来は若い人の手にある。これから日本はどうなるのかと不安だったがこの若い人たちと会えて希望を持てました」と話した。

 先生が「戦争はダメよ、絶対」と言うと、インフルエンサーたちは「本当にそう思う。戦争はいけないとSNSで発信します」と言ってくれた。素直で真っすぐな彼らを見て、私は「若い人にこそどんどん先生の思いを伝えていきたい」と改めて感じた。

 先生は日々、私のエネルギーを吸い取ってますます元気になっていくが、反対に私は最近ほうれい線に悩まされている。私より断然若いインフルエンサーたちと比較して、先生に「まなほが、もう30歳なんて恐ろしい」と言われた。「誰のせいだ」とぶつぶつ文句を言いながら、私は今日もこっそり先生の大切にしている高級クリームをほうれい線に塗っている。(2018年8月)